第21話 木の妖精

文字数 2,418文字

 この日、ぽーは()()になった山の上をママを(さが)しながら飛んでいました。


 ……すると、突然(とつぜん)山の(ちか)くにある村から女の子の声が聞こえてきました。

「この木を、きらないで!」

「おじさんたち、ダメだからね!」


「……ん? なんだろう?」

 ぽーが下を見ると、小さな女の子が一人(ひとり)、大きな木の前で(うで)を大きく(ひろ)げてさけんでいました。

 女の子の前では、作業服(さぎょうふく)()二人(ふたり)のおじさんが、(こま)った様子(ようす)で立っています。

「おじょうちゃん、ごめんよ。おじさんたちは、ここに道路(どうろ)(つく)らなくちゃいけないんだ。それには、この大きな木は邪魔(じゃま)なんだよ」

「ほら、せいこ。あきらめなさい、もう帰ろ」
 せいこちゃんのママが、せいこちゃんの手を()いています。

「いやだ! この木は、おばあちゃんといっぱいあそんだ大事(だいじ)な木なの!」
 せいこちゃんは木から(はな)れません。

 すると、木を()機械(きかい)()ったおじさんが、(ちか)づいてきました。

 せいこちゃんのパパとママは、せいこちゃんを無理(むり)やり()っこして、木から(はな)れました。

「えーん、いやだー!」

 せいこちゃんは、足をバタバタしながら()いています。

 おじさんの()ってきた機械(きかい)(うご)きだしました。


 ギュインギュインギュイン

 そして、機械(きかい)のとがった(さき)が木に()れた時に……


「――イタタタタア、イタい、イタい、やめてくれ!」


 どこからか、大きな声が聞こえてきました。

「ん……? だれだろう……」

 ぽーは、ぐるっと木の周辺(しゅうへん)を回ってみました。ぽーの(ほか)には(だれ)も声に気づいていないようです。


「キミの名前(なまえ)は、なんて言うんだい?」


「ん……? どこから聞こえるんだろう?」
 ぽーは、キョロキョロして(さが)しています。

「ここ、ここだよ。目の前に大きなブナの木があるだろ?」

「――ひいっ、木がしゃべってる!」
 ぽーはビックリして、ブナの木から(はな)れました。

「おどろかなくてよい。ほら、こっちへおいで」
 大きなブナの木は、(やさ)しくぽーを()びました。

 ぽーは、おそるおそるブナの木に(ちか)づいていきます。

「ボク? ぽーだよ」

「ぽーか、よい名だね」

「おじさんはだれ?」

「おじさん? わしは、まだ百二十歳(ひゃくにじゅっさい)若者(わかもの)だよ。……まあ、木の世界(せかい)では、だけどな」

「へえ……。それで?」

「わしは、この木の妖精(ようせい)なんだ」

「ようせい?」

「うん、そう。そんなことより大変(たいへん)なことになってるんだ。(たす)けてくれ」

「たすけるって言っても……、どうすればいいんだろう?」

「わしは、まだせいこちゃんを見守(みまも)りたいんだよ。それが、おばあさんとの約束(やくそく)なんだ」

「ふーむ、そっかあ。でも、どうしたらいいんだろう?」
 そう言って、ぽーはブナの木の(えだ)(さわ)りました。

 すると、木の(えだ)についていたドングリが3個、4個と下に()ちて、おじさんたちの(あたま)にコツンコツンとあたりました。

「イ、イテテッ!」

「なんだ? ドングリか……。それにしても、ここのドングリは大きいなあ」
 おじさんたちは、上を見上(みあ)げてそう言いました。

 そして、また機械(きかい)(うご)かして木を()(はじ)めます。

 ギュインギュインギュイン

「うわぁ、どうしよう」
 ぽーは、(あわ)ててアタフタしています。しかし、どうしたらいいか分かりません。

(たす)けてくれぇ!」
 木の妖精(ようせい)は、大きな声でさけんでいます。しかし、その声はぽーにしか(とど)いていません。


「よし、これでどうだ!」
 ぽーはもう一度(いちど)今度(こんど)はたくさんの(えだ)()らしてみることにしました。 


 ゆっさ ゆっさ
 ばさ ばさ ばさー
 ひゆーん ひゅーん
 ぼて ぼて ぼてー


 今度(こんど)は、たくさんのドングリが大雨(おおあめ)のように一気(いっき)におじさんたちに()けて()ちていきました。

「うわあ、なんだこれは!」
「木が()れて、ドングリが一気(いっき)()ちてきたぞ!」
「これは、木のたたりじゃあ!」

 おじさんたちは、突然(とつぜん)ドングリがたくさん()ちてきたので、ビックリして()げていってしまいました。


      * * * * * 


 何日(なんにち)かして…………

 ぽーは、大きなブナの木の様子(ようす)を見に、山の(ちか)くの(むら)にやってきました。

 大きな木は、この(あいだ)場所(ばしょ)から(すこ)移動(いどう)していました。木の下では、せいこちゃんが、パパとドングリを使(つか)って工作(こうさく)をしています。

「ねえ、パパ」

「うん、なんだい?」

「このドングリで(つく)ったお(うち)、おばあちゃんのお(はか)()っていってもいい?」

「うん、いいよ」

「おばあちゃんが元気(げんき)だったころ、いつか大きくなったらせいこもつくれるようになるよって言ってたから、わたし、大きくなったよって言えるかな?」

「うん、言えるよ。きっと、おばあちゃんも(よろこ)ぶよ」
 パパはそう言うと、せいこちゃんの(あたま)をなでました。


「よかったね、せいこちゃん」
 ぽーはそう言って、うれしそうにうなずいています。


 すると……

「おーい、おばけの子。ありがとうな」 
 大きなブナの木から、声が聞こえてきました。

(たすか)ったよ。これで、おばあさんとの約束(やくそく)()たせそうだ」
 
「よかったね、木のようせいさん」

「わしはな、せいこちゃんのおばあさんが小さな(とき)から、ずっと見てきたんだ。そして、おばあさんになった文子(ふみこ)ちゃんが、ある時わしのとこに来てな。せいこちゃんを見守(まも)ってくれって(たの)まれたんじゃ」

「そうだったんだ」

「うん、そうじゃ。――あっ、そうだ。たのみがある」

「うん、なに?」

「キミの世界(せかい)で、文子(ふみこ)ばあさんに()うことがあったら、せいこちゃんは元気(げんき)だよって(つた)えてくれないかい」

「うん、()かった!」

「そして、ブナの木がたくさん(あそ)んでくれてありがとうって、言ってたとな」

「うん、ちゃんと(つた)えるよ」

「ありがとう。じゃあ、また(あそ)びにきてくれよ。ずっと、(はな)相手(あいて)もいなくて、退屈(たいくつ)してるんだ。(うご)けないしな。あっはは」

()かった。じゃあ、ともだちだね」

「うん、友達(ともだち)だ」



 すると、カラーン♪、コローン♪という(やさ)しい(かね)の音が雲の上にある教会(きょうかい)から()(ひび)きました。


「あっ、かえらなきゃ。じゃあ、木のようせいさん、またね、バイバイ」

「うん、またな」


 ぽーは、また(あたら)しい友達(ともだち)ができて、うれしそうに空へと飛んでいきました。

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