第16話 見ること・はなすこと

文字数 1,500文字

 おばけのぽーは、今日(きょう)もママを(さが)すため、雲の階段(かいだん)をおりて小さな冒険(ぼうけん)に出ています。

 今日(きょう)は、大きな建物(たてもの)やたくさんの人たちがいる(まち)の上を飛んでいました。

「いっぱい人がいるな。このあたりは、じいちゃんが言ってた『とかい』っていう場所(ばしょ)かな」
 ぽーは人を見ているのが大好(だいす)き。たくさんの人が(ある)いている場所(ばしょ)ながめていました。

「あのおにいさん、何かキョロキョロしながら(ある)いてるな。あぶないなぁ」

「あ~あ。ほら、ぶつかった」

「おじさんにおこられてるよ。かわいそうだけど、しょうがないよね」

 ぽーが、ぶつぶつ言いながらながめていると……

 大きな犬を()れた女の人が、ゆっくりと(つえ)(みち)確認(かくにん)しながら(ある)いています。
「だいじょうぶかな? なんかフラフラしたかんじだけど……。もうすぐ赤になっちゃうよ」

 ぽーは、しばらく見ていたので、そろそろ(ある)いている人と自動車(じどうしゃ)順番(じゅんばん)()わりそうな気がしました。

 女の人と一緒(いっしょ)(ある)いている大きな犬も、なんだか調子(ちょうし)(わる)そうです。


 ――そこで、ぽーはスーッと女の人に(ちか)づいて女の人の手をとりました。

「あ……っ、ありがとう。ごしんせつに……」

 そうして、ぽーは安全(あんぜん)場所(ばしょ)まで女の人を()れていきました。

「すいません、ありがとうございました」

(あ……っ、この女の人、目が見えないんだな。じゃあ、この犬は……)

「――(わる)いね、今日(きょう)(からだ)調子(ちょうし)がわるくてね」
 (となり)にいた大きな犬が、ぽーに言いました。

「え……っ、ボクが見えるの?」
 ぽーが、ビックリしてたずねました。
「いや、見えないけどね。(にお)いでわかるんだよ。うっすら男の子の(にお)いを(かん)じるんだ」
「へぇ……」

(たす)けてくれたかた。あなたのお名前(なまえ)は?」
 女の人がぽーにたずねました。

 ぽーは、女の人の手のひらに、ハルじいさんに(おし)えてもらった文字で『ぽー』と()きました。
「……なにか手のひらにかいたの? ごめんなさい、もう一度(いちど)()いてください」
 ぽーは、ゆっくりと『ぽー』と()きます。

「ぽーさん? ぽーさんはお(はなし)ができないの?」
 ぽーは、そのまま女の人の手のひらに丸を()きました。
「そうなんですね」と言って女の人はほほえみました。

(わたし)はまなみって言います。それで、この犬は盲導犬(もうどうけん)のパトラって言うの」
 まなみさんは、そういってパトラの(あたま)をなでました。
 ぽーは、パトラを見て「パトラ、よろしくね」と言いました。

「ぽーさんは男の子かな?」
 ぽーは、どうして()かったのか不思議(ふしぎ)(おも)いました。そして、丸を()きます。
「ふふふ、どうして()かった? って思ったでしょ」
 ぽーは、丸を()きます。(すこ)しずつ、まなみさんとの(はなし)(たの)しくなってきました。
「さっき、手をひいてもらったときに、なんとなく(かん)じたの。元気(げんき)な男の子だなって……。目が見えないと、感覚(かんかく)(するどく)くなるっていうのは本当(ほんとう)なのよ」

「ぽーさんは、お(はなし)ができないかわりに、きっと、(やさ)しい(こころ)()っているのね。だから、(わたし)(たす)けてくれた」

「――あっ、そうだ。ぽーさん、(わたし)友達(ともだち)になってくれませんか?」
 ぽーは、とってもうれしくて、すぐに大きな丸を()きました。
「よかった」
 まなみさんもうれしそうです。
「じゃあ、家に(かえ)るね」
 ぽーもパトラと一緒(いっしょ)に、まなみさんの家まで()いて行きました。


「ぽーさん、今日(きょう)はありがとうね。とっても(たの)しかった」
 ぽーも、まなみさんの手のひらに『ありがとう』と()きました。
「うん、また(あそ)びに来てね」
 ぽーは、丸を()きました。


 そして、パトラにバイバイと言って、空に飛んでいきました。

「そうだ、かえったらハルじいさんに文字(もじ)をいっぱい(おし)えてもらおっと♪」


 でも……、今日(きょう)はたくさん(さわ)りすぎたかな? まずは早くワポの実を()べようね、ぽー。
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