第29話 南の海のおはなし
文字数 2,135文字
今日、ぽーとハルじいさんは、大きな海の上を、ワポの畑のある南の空に向かって飛んでいます。
「海は広いな、おおきいいなあ♪」
「月がのぼるし、日がしいずうむう♪」
ぽーは、ご機嫌に歌を口ずさみながら、飛んでいました。
すると……
ピューイ ピューイ
ぽーが今まで聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえてきました。
「ん? なんのなき声だろう」
ぽーは、海面をじっと見ていると、青い色をした動物が、時折ジャンプをしながら泳いでいます。
「ほお……、あれはイルカじゃな。少し小さいから子供のイルカじゃ」
ハルおじいさんが教えてくれました。
「へえ……、あれがイルカかあ。泳ぐの早いね」
そう言いながら、ぽーは子供イルカに近づいていきます。
ピイー ピューイ
「ん? なんだ? 負けないぞって言ってるぞ、このイルカ君」
子供のイルカは、ぽーを見ながら言っています。
そして、ぽーには、子供イルカの話している事が分かりました。
「よし! 負けるもんかあ」
「おーい、こらこら、ぽーやーい」
ハルじいさんが、慌ててぽーを呼び止めますが、勝負を挑まれてやる気になってしまったぽーの耳には入りません。
「へへへ、ボクの勝ちだぁ」
ぽーはガッツポーズしています。
ピューイ
「なんだってぇ! ゴールはまだ先だってぇ!」
そうするうちに、ぽーと子供イルカは、最初の場所から、はるか遠くまで来てしまいました。
「たのしかったねえ」
ピューイ
ぽーと子供イルカは、いつの間にか友達になっていました。勝負の後に芽生えた男の友情です。
ピュイ ピイー
すると、子供のイルカは周りをキョロキョロしながら言いました。
「えっ、イルカ君。ママとはぐれちゃったの?」
ピュイ ピュイ
「そっかぁ。じゃあ探すのを手伝ってあげるよ」
ピューイ♪
「空からさがせば、すぐに見つかるよね」
……しかし、ぽーたちがいくら探しても、イルカのママは見つかりません。ぽーは、後から追ってきたハルじいさんに話しました。
「普通、イルカは水の中で音の波のような物を出して仲間と会話できるんじゃ」
「へえ……」
「これは、相手が遠くにいても大丈夫なはずじゃがの」
「そっかあ。じゃあどうして見つからないのかなあ?」
「ふむ」
しばらくの間、ぽーとハルじいさんが空を飛び、子供イルカは海の中からママを探していました。
すると……
「あっ、あの船」
ぽーが少し先にある船に気づきました。
「どうしたんじゃ」
ぽーとハルじいさんは船に近づいてみると、船の上の水槽には大きなイルカが入っています。
「そうか、捕まって船の上だったのか。どうりで分からんはずじゃ」
「そっかあ」
「でも、どうすればいいかの」
ハルじいさんは考えています。
そうして、ぽーとハルじいさんは、しばらく船と一緒に飛んでいます。そして、子供イルカもこっそり後ろをついていきました。
しばらくすると、船は小さな港に到着しました。
「なんか、いつも見る人たちじゃないね」
そこには、白や黒い顔色をした鼻の大きな背の高い人たちがたくさんいました。
「ここは、外国だからのお」
「へえ……、じゃあ、あれがガイジンさんかあ」
そして、船からイルカが地上に運ばれてきます。イルカは大分弱っています。
「まずいのお、このままじゃと……」
ハルじいさんが、ぽつりとつぶやきます。
「どうしよう、じいちゃん」
「ふむ、そうかそうか。あの丸太の上の台に載せるつもりじゃな」
ハルじいさんが、何か思いついたようです。
「よし! ぽー」
「うん」
「あの人間たちはイルカを台に載せて、丸太を転がせて運ぶつもりじゃからな」
「うん」
「あの台に載せた瞬間に、あの支えてる棒を外してやるんじゃ」
「うん、分かった」
「そうすれば、丸太は坂道を転がって海まで行くじゃろ」
そうして、大きな体をした大人たちが、イルカを水槽から丸太に載せようと、みんなで声を出して運んでいます。そして、砂場の上に置かれた丸太の上の台にイルカを載せました。
「今じゃ!」
「よっしゃー」
そう言って、ぽーは勢いよく木の棒を外しました。すると、イルカを載せた台は、動き出して海に向かって進んで行きます。
ゴロン ゴロン ゴロン
ゴロン ゴロン ゴロン
「行け行けー」
そして、人間たちの慌てた声が聞こえてきます。
ジャブーーン
「やったあ」
子供イルカのママを載せた台は、無事に海に着きました。
……しかし、子供イルカのママは、しばらく海の上に浮かんだまま動きません。
「だいじょうぶかなあ?」
「ふむ……」
ハルじいさんとぽーは、心配そうに見ています。
ピューイ ピィー
しばらくして、子供イルカがママに近づいてきました。
そしてママを何度もつついています。
そのうちに、ぽーも一緒に子供イルカのママをなでました。
「がんばれー。イルカ君のママさーん」
「ピューイピューイ」
すると……
ピ……ィ…… ピュー……
子供イルカのママは、ゆっくりと動き出しました。
「ああー良かったあ」
ピューイ♩
ハルじいさんも、うれしそうにうなずいています。
ピューイ ピューイ
子供イルカは、うれしそうに海の上にジャンプしています。
……こうして、イルカの親子とぽーたちは、南の空に向かって仲良く進んで行きました。
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