第20話 親子ピエロ

文字数 2,561文字

 ぽーは今日(きょう)、まなみさんの家で、ハルじいさんに(おし)えてもらった文字(もじ)使(つか)ってお話をしていました。

「……あはは、おもしろいね。それで、犬のコロちゃんとママを(さが)しに冒険(ぼうけん)したの?」
 ぽーは、まなみさんの手のひらに丸をかきました。
「いいなあ。ぽーくんが、冒険(ぼうけん)してる姿(すがた)想像(そうぞう)するだけでも(たの)しいよ。はやく、ママが見つかるといいね、ぽーくんもコロちゃんも」

 そして、しばらくすると、まなみさんがパトラと()(もの)に出かけるので、ぽーはまなみさんの家から出てきました。

「じゃあね、パトラ」
「わん」
「じゃあね、ぽーくん」



 ぽーが、ママを(さが)して、青い空を気分(きぶん)よく飛んでいると、()()に大きなテントが見えてきました。
 そして、たくさんの子供(こども)たちが、そのテントに(むか)って(ある)いていきます。

「なんだろう?」

 ぽーが(ちか)づいていくと、その赤いテントは、キラキラしたボールや、星の(かたち)をした(もの)(かざ)られ、(ぞう)やライオンの大きな写真(しゃしん)()ってあります。

「あ……っ、ピエロだ!」

 テントの(まえ)ではピエロが(おど)っていました。
 そして、その(おど)っている大人(おとな)のピエロと、その(となり)で3個のボールを(あたま)の上で上手(じょうず)にクルクル回している子供(こども)のピエロがいます。

 そして、そのピエロたちは、たくさんの子供(こども)たちに(かこ)まれていました。

「うわぁ、すごいねぇ」
「ねぇ、パパ、しゃしんとってよ」
親子(おやこ)のピエロだ!」

 みんな、大喜(おおよろこ)びで、はしゃいでいます。そして、その(ちか)くで、ぽーも(たの)しそうに見ていました。


「――まもなく、サーカスが(はじ)まります。テントの中へ入ってください」
 スピーカーから、女の人の声が聞こえてきました。

「そうか! これがサーカスかぁ」

 (すこ)し前、ママにサーカスの絵本(えほん)を読んでもらってから、ぽーがずっと行きたいと思っていた場所(ばしょ)です。
 ぽーは、子供(こども)たちと一緒(いっしょ)に、ワクワクしながらテントの中へ入りました。


 ……しばらくすると、明かりが()えてテントの中は(くら)くなりました。

「この(あいだ)みたいな、ニセモノのおばけとか出てこないよね?」

 ぽーが、ドキドキしながら()っていると、(あた)りが突然(とつぜん)まばゆいばかりに(あか)るくなり、テントの()(なか)広場(ひろば)自転車(じてんしゃ)に乗ったピエロを先頭(せんとう)に、金色(きんいろ)(かみ)の色をしたおにいさんやおねえさん、そして(ぞう)やお(さる)がコミカルに(うご)きながら、(たの)しそうに回っています。

「うわぁ♪」
 ぽーはキラキラした目で見ていました。

 そして、最後(さいご)には先ほどの子供(こども)のピエロが、3個のボールをクルクルと上げながら(ある)いてきました。

「うわぁ、じょうずだな、あの子」 
 ぽーの(となり)の男の子が、ビックリしながら言いました。

 そして、黒くて(なが)帽子(ぼうし)をかぶり、ぽっちゃりと(ふと)ったおじさんが、ステージの中央(ちゅうおう)に立って、大きな声で言いました。

「さあ、サーカスの見せ(もの)がはじまるよー」


 金色(きんいろ)の髪の色をしたカッコいいおにいさんとおねえさんが、天井(てんじょう)()り下げられたブランコに()って飛んでいます。

 ぽーは、最初(さいしょ)は、目を(かがや)かせて見ているだけでしたが、そのうちに我慢(がまん)できなくなり、ブランコまで行って、おにいさんやおねえさんと一緒(いっしょ)に飛んでいます。

「やっほおー♪」

 それからも、(ぞう)(なが)(はな)でボールを回したり、ライオンが(おり)の中で立ち上がって見せたりするたびに、歓声(かんせい)があがりました。



 そして、さっきの(ふと)ったおじさんが、ステージの中央(ちゅうおう)に出てきました。


「さあ、最後(さいご)はピエロだよ。今日(きょう)は何をしてくれるのかな?」
 

 まず、お父さんのピエロが大きな(たま)()って広場(ひろば)を回りました。そして、子供(こども)のピエロは一輪車(いちりんしゃ)()って、お父さんのピエロと競争(きょうそう)(はじ)めました。

 見ている子供(こども)たちは「がんばれー」と、子供(こども)のピエロを応援(おうえん)しています。

 しかし……

「あっ、あぶない!」
 ぽーが、さけびました。

 ガシャン

 一輪車(いちりんしゃ)に乗っていた子供(こども)のピエロが、フラフラしたあとに(ころ)んでしまいました。

 …… 

 ……
 
 会場(かいじょう)は、シーンと(しず)かになってしまいました。
 子供(こども)のピエロは立ち上がりましたが、目には(なみだ)がこぼれています。

 すると、お父さんのピエロは、すぐに子供(こども)のピエロを肩車(かたぐるま)してコミカルな(うご)きでダンスを(はじ)めます。()いていた子供(こども)のピエロも、(わら)いながら元気(げんき)よく手を上げました。

「ピエロ、さいこぉ♪」

 会場(かいじょう)もその様子(ようす)を見て大盛(おおも)りあがりです。

「よかったねえ」
 ぽーも、ホッとひと安心(あんしん)です。


 そしてサーカスは()わり、たくさんの子供(こども)たちも(かえ)っていきました。ぽーはさっきの子供(こども)のピエロのことが気になり、テント(うら)()(ぐち)から、こっそりと中へと入っていきました。


 すると、先ほどの子供(こども)のピエロが()いていました。
「ごめんね、パパ。しっぱいしちゃって……」
失敗(しっぱい)したことはいいんだよ、かける」
「うん」
「でもね、かける。失敗(しっぱい)した(あと)()いちゃっただろ?」
「うん……」
「それは、よくないよ」
 かける(くん)は、だまってパパの(はなし)を聞いています。
「ピエロはね、お客さんを(わら)わせるのが仕事(しごと)なんだ。だから、()いちゃダメだよ」
 かける(くん)はうなずいています。
失敗(しっぱい)したら、それを(わら)いにするように努力(どりょく)しなくちゃな」
「……うん、()かった。パパ」

 かける(くん)のパパは、ニッコリ(わら)ってかける(くん)(あたま)(やさ)しくポンッとしました。


「そういえば、(すこ)し前に公園(こうえん)にいたピエロさんも、ボクがじゃまをしてボールを()とした(とき)、おもしろい(うご)きをして(わら)わせてたな」



 そして、その日の夕方(ゆうがた)……

 ぽーは、おやつのワポの実を()べてから、気になってもう一度(いちど)サーカスのテントにやってきました。

「かける(くん)、がんばってるかな? あ……っ、かける(くん)だ」
 かける(くん)は、テントの(そと)でたくさんの子供たちの(まえ)で、2個のボールを上げていました。ぽーは、しばらくかける(くん)様子(ようす)を見ていました。。

 すると、かける(くん)はボールが()れずに失敗(しっぱい)してしまいました。

「あらあら、大丈夫(だいじょうぶ)かな? かける(くん)

 しかし、かける(くん)は、口から(した)をペロンと出して、足を左右(さゆう)(うご)かして(たの)しそうにステップしています。

「あはは、あの小さいピエロ。失敗(しっぱい)しても、(たの)しそうに(おど)ってるよ」
 男の子がママに笑って話しています。

 かける(くん)のパパも、(やさ)しいまなざしでうなずいています。

「うん、よかったね、かける(くん)。キミはすごくカッコいいよ」

 ぽーは、うれしそうにほほえみました。
 
「かける(くん)のパパは、(やさ)しいね。ボクもパパに()ってみたいな」


 ぽーは、パパを(おも)いながら空を飛んでいきました。
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