第17話 入道雲の畑

文字数 1,879文字

 この日、ハルじいさんは(あさ)から大忙(おおいそが)しです。

 今日(きょう)は、入道雲(にゅうどうぐも)(はたけ)にワポの実の(たね)まきをする日。今は、そのための準備(じゅんび)をしています。

 日本(にほん)(あき)入道雲(にゅうどうぐも)(はたけ)には、(すこ)(とお)くまで行かなくてはいけません。

 ぽーは、ハルじいさんの手伝(てつだ)いで一緒(いっしょ)に行くことになっています。(はじ)めての(たね)まきにウキウキしています。

「ねぇ、じいちゃん。おかしは()っていってもいいの?」
「ふむ……、いいけど 荷物(にもつ)(おお)くならないようにな。(たね)(はい)った(ふくろ)()っていかなくちゃいけないからね」
()かった。(すこ)しだけにするね」

「この(ふくろ)(たね)をつめてと……。あとは、おにぎりを(つく)らなくちゃな」
今日(きょう)は、ボクがおにぎりをつくるよ」
「おお、そうか。じゃあよろしくたのむよ、ぽー」
 ハルじいさんは、うれしそうにぽーに言いました。
「うん、まかせといて」

 そして、ぽーの(はじ)めてのおにぎりづくりです。
「おにぎり、にぎにぎ……、にぎにぎ……」

「おにぎり、にぎにぎ……、にぎにぎ……」

 パクッ

 これこれ、()べちゃダメよ、ぽー

「にぎにぎ、あれ……? さんかくのおにぎりにならないな」
 ぽーは、三角(さんかく)にしようと何度(なんど)もにぎにぎしますが、ママやハルじいさんのようにうまくいきません。そうしているうちに、どんどん小さくなってしまいました。


「……じいちゃん、おにぎり小さくなっちゃった」
 ぽーは、小さな声でボソッと言いました。

「あらあら……」
 ハルじいさんは小さくなったおにぎりを()()ると「しょうがないな」と(わら)いながら、お(こめ)をたして大きくしました。

「よし、これでよいじゃろ」
「ありがとう、じいちゃん」


「……さてと、じゃあそろそろ行こうかね」

「やったぁ!」

 ぽーは、ぴょんぴょん飛びはねて(よろこ)んでいます。
今日(きょう)は、(うみ)の上を飛ぶから(とお)いぞ」
「うん、()かった!」

 そして、ぽーとハルじいさんは、入道雲(にゅうどうぐも)(はたけ)のある(みなみ)方向(ほうこう)へ飛んでいきました。



 ……しばらく飛んでいると、大きな大きな青い(うみ)が見えてきました。
「うわぁ……、きれいだなあ」
 ぽーは、普段(ふだん)あまり(ちか)くで見ない(うみ)感動(かんどう)しています。
「ほれ、ぽー。あそこを見てごらん。大きな(ふね)だぞ」
「うわぁ、大きいね。すごく、ゆっくりだね」
 空の上から見える大きな(ふね)は、(すす)んでいるのが()からないくらい、ゆっくり(すす)んでいます。

「あれは、荷物(にもつ)をたくさん()んでる(ふね)だよ」
「そうか、どうりで人があまりいないね」
「うんうん、そうじゃな」


 そうして、しばらく飛んでいると突然(とつぜん)水しぶきが上がりました。
「ん? なんだろう? なんか、まあるい大きな(もの)から水しぶき……」

 ぽーは飛ぶのをやめて、じっと見ていました。

「――あっ、あれは本で見たことあるクジラだ!」

 大きいクジラと小さなクジラの2(とう)(およ)いでいました。
「あれは、親子(おやこ)のクジラじゃな」
「じゃあ大きいクジラは、パパかな? ママかな?」
「ふむ、クジラはパパかママかを見分(みわけ)るのがむずかしくてな。でも……、おそらくママじゃろうな」
「へえ……、そっかあ」

 ぽーは、しばらく親子(おやこ)のクジラを(たの)しそうに見ていました。
 ハルじいさんも、ぽーの様子(ようす)(やさ)しいまなざしで見ています。


「……よし、そろそろ行こうかね。日がくれてしまう」
「うん、わかった。じいちゃん」


 そして、しばらく(なに)もない(うみ)の上を飛んでいると、太陽(たいよう)の光がどんどん(つよ)くなってきました。

「このあたりは、夏だな。そろそろじゃぞ」
「もうすぐ、つくんだね、ワクワク」

 すると、()(しろ)で大きな入道雲(にゅうどうぐも)が見えてきました。
「あれが、ワポの実の(はたけ)のある雲じゃ」
 ハルじいさんは、入道雲(にゅうどうぐも)のひとつをさしました。

「うわぁ……、大きいね」
「そうじゃな。じゃあ行くぞ、ぽー」

 そして、ぽーとハルじいさんは、ふわふわした入道雲(にゅうどうぐも)の上につきました。

「さて、ぽー。この(ふくろ)に入っている(たね)を『大きくなあれ』って、お(いの)りしながら、()えておくれ」
「うん、わかった」

「大きくなあれ!」 

「うんうん、そうじゃ。その(たね)が、雲の中で太陽(たいよう)の光を()びながら、雲の水分(すいぶん)をもらって大きくなっていくんじゃ」
「そっか。ワポの実は太陽(たいよう)の子だもんね」
「そして、この入道雲(にゅうどうぐも)(はたけ)が、日本(にほん)(そら)(もど)ってくる夏になると、たくさんのワポの実が、なっているんじゃ」

「へえ……。ねえ、じいちゃん」
「ん?」
「夏になったら、ぽーもワポの実をとるのを手伝(てつだ)いたいな!」
「そうじゃな。そうしたら、ぽーに(たの)むとしよう」
「うん、やったぁ」


 ハルじいさんとぽーは、()(しろ)な雲の上で、太陽(たいよう)の光を()びながら、(たの)しそうに(たね)まきをしています。



 ハルじいさんは、いつもは一人(ひとり)でやっていたワポの実の(たね)まきを、ぽーと一緒(いっしょ)にできるようになって、とても(よろこ)んでいます。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み