第28話 ウトウトしたらダメだよ!

文字数 1,960文字

「ねえねえ、じいちゃん」

「なんだい? ぽー」

 ある日、ぽーはおやつの時間(じかん)にワポの実を()べながら、ハルじいさんにたずねました。
 ハルじいさんは、雲の(いけ)魚釣(さかなつ)りをするための、釣竿(つりざお)手入(てい)れをしています。


「こないだね、公園(こうえん)におばあちゃんがいたの」

「うん」

「そのおばあちゃんのね、(あたま)の上が青く(ひか)ってたんだけど……。どうしてなの?」

「う、うん……そっか、青く光ってたか」
 ハルじいさんは、手を()めて何か(かんが)えていました。

「うん、そうなの」

「それはな、ぽー。まもなく、そのおばあちゃんは、わしたちのようなおばけになるんじゃ」

「へえ……、おばけになるのかあ」

「う……、うん、まあそうじゃな。ほれっ、お昼寝(ひるね)時間(じかん)じゃ」

「はーい」
 
 すやすや……



 そしてこの日、ぽーが家を出た時には、空は少しずつ(くら)くなっていました。

今日(きょう)()り道せずに、ママを(さが)すぞ!」


 しばらくすると、空の下からはぽつぽつと家の()かりが見えてきました。

「ママあ、どこにいるのー?」

 ぽーは、(あた)りをキョロキョロしながらママを(さが)しています。(くら)くても、ぽーには(とお)くまで()えています。



「えーん、パパーが(かえ)ってこないよお」
 ……すると、どこかの家から男の子の()き声が聞こえてきました。

「ん? どうしたんだろう」
 ぽーは、子供(こども)の泣き声が聞こえるとほおっておけません。空から声のする家まで下りていきます。
 そして、ぽーは泣き声のする家の(まど)から中を見ました。

今日(きょう)はボクの誕生日(たんじょうび)だから、早く(かえ)ってくるって言ってたのにー」

 家の中では、男の子が足をバタバタしながら泣いています。(つくえ)の上には、丸いケーキが()かれたまま……。

「しょうがないでしょ。パパはお仕事(しごと)なんだから」

「パパ、だいっきらいだー」

「こら、けんちゃん!」

「えーん、大きな電車(でんしゃ)のおもちゃ()ってくるって言ったのに。(あそ)びたいよぉ」

「ダメだぞ、けんちゃん。パパは、お仕事(しごと)がんばってんだぞ」
 
 ぽーは自分(じぶん)では気づいてませんが、(たましい)の水を()んで(とし)をとったので、少しだけ(かんが)(かた)大人(おとな)になっていました。

 そうして、ぽーはけんちゃんの家を(はな)れ、空へ飛んでいきます。



 しばらく飛んでいると、(くるま)がすごいスピードでビュンビュン(はし)っている道路(どうろ)がありました。

「うああ、すごいな。あんなスピードだして、こわいなー」
 ぽーは、目を()(まる)にして(おどろ)いています。

 そう、ここは高速道路(こうそくどうろ)(あさ)でも(よる)でも関係(かんけい)なく、一日中(いちにちちゅう)たくさんの車がスピードを出して(はし)っています。

「あ……っ、あの車小さくてかわいいなあ」

「あの赤い車、かっこいいな」


 ぽーは、しばらくいろんな車を(たの)しそうに見ていました。

 ……すると、1(だい)の大きなトラックが、右へ左へとフラフラしながら走っていました。

「どうしたんだろう? (あぶ)ないな」
 ぽーは気になって、そのトラックへと近づきました。
 そして、車の中に入っていきます。


 車の中では、おじさんが運転(うんてん)していました。

「おーい、おじさん。あぶないよ、気をつけて」
 ぽーが、心配(しんぱい)して声をかけました。

 すると……


「けんちゃん、()ってろよ。パパがおもちゃ買って来たからな!」


「ん? けんちゃん?」
 
 そして、ぽーがおじさんの(となり)()いてある大きな(はこ)を見ると、それは電車(でんしゃ)のおもちゃでした。

「あ……っ、このおじさん、けんちゃんのパパだ」


「ん? あれ……?」

 よく見ると、けんちゃんのパパの(あたま)には、青い色をした光が見えています。


「じいちゃんが言ってたな。青い光が見える人は、ボクたちおばけの仲間(なかま)になるって……、どういう(こと)だろう?」


 よく見ると、けんちゃんのパパはウトウトしています。

 今日(きょう)はけんちゃんの(ため)に、仕事(しごと)頑張(がんば)()ぎて(つか)れちゃったようです。

「けんちゃ……ん、ま……ってろ……」


 むにゃむにゃ

 ……ぐぅぐぅ


「ダメだ! ()ちゃダメだよ、まだ、ボクたちの仲間(なかま)になっちゃダメだよ、けんちゃんがプレゼント()ってるよ!」

 そして、ぽーは(さわ)りたい! と思って、けんちゃんのパパの(あたま)を思いっきり(たた)きました。


 バシッ、バシッ


「いたたああ。カミさん、ごめんよお」
 けんちゃんのパパは、目を()ましました。

「ふぅ、よかった」


 すると、けんちゃんのパパの頭の上の青い光も()えていきました。
 ぽーもホッとひと安心(あんしん)です。



 そして、ぽーはそのままけんちゃんのパパと一緒(いっしょ)に、けんちゃんの家まで行きました。

「ごめんな、けんちゃん。お誕生日(たんじょうび)おめでとう」

「ううん、パパ、よるおそくまでお仕事(しごと)がんばってくれてありがとう」
 けんちゃんは、そう言ってパパに()きつきました。


「よかった、よかった」
 ぽーは、けんちゃんの(よろこ)んでいる姿(すがた)を見て、満足(まんぞく)そうにうなずくと、空に飛び立ちました。


「でも、あのケーキ美味(おいし)しそうだったな。今度(こんど)雲の上のケーキ屋さんで、じいちゃんに()ってもらおうっと♪」


「……でも、ぽーの誕生日(たんじょうび)っていつだろう?」
 



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