第25話 ジャック・オラウータン?

文字数 2,298文字

 おばけのぽーは、今日(きょう)もママを(さが)すため、雲の階段(かいだん)をおりて小さな冒険(ぼうけん)に出ています。
 ぽーは今、オレンジ色の夕日に(むか)って飛んでいました。


「あれ……? なんだろう?」

 ぽーが(まち)の上を飛んでいると、大きな怪獣(かいじゅう)のぬいぐるみを()ていたり、魔法使(まほうつか)いや()()なてんとう(むし)衣装(いしょう)()ている子もいます。

「あれれ? ボクと(おな)じだな、あの子たち。仲間(なかま)かなあ」
 見ると、()(しろ)なおばけの恰好(かっこう)をした子供(こども)たちもいました。

 みんな、どこかに(むか)って(ある)いています。

「どこに行くんだろう?」
 ぽーは、みんなについていくことにしました。


 ……しばらくすると、大きな(みち)に出てきました。そこは普段(ふだん)(くるま)がたくさん(はし)(みち)。しかし、今日(きょう)(くるま)は1台も(はし)っていません。

 (みち)()(なか)を、いろんな面白(おもしろ)衣装(いしょう)()た人たちが(たの)しそうに(ある)いています。

 なかには、音楽(おんがく)をながして(おど)っている人もいます。

 ぽーはそれを見ていると、なんだかとっても(たの)しくなって、みんなと一緒(いっしょ)(おど)(はじ)めました。

 タン タカ ターン♪

 タン タン タカ ターン♪

「わーい、わーい♪」


 そして、しばらく(おど)りながら(すす)んで行くと、少し(くら)くなってきた道のあちこちに、大きなカボチャがぶら下がっていました。

「あれっ? あれはなんだろう……」

 そのカボチャは、目と(はな)と口の(かたち)にくり()いてあり、中がピカッと光っています。

「なんだかこわいなあ」
 ぽーは、カボチャを見るのが(はじ)めてです。


「あ……っ、ジャック・オー・ランタンだ!」
 男の子がやってきて、ぽーが見ていたカボチャのランタンを(さわ)っています。

「へえ……、ジャック・オラウータンって言うんだぁ。動物園(どうぶつえん)でそんな動物(どうぶつ)いたなあ」
 ぽーは間違(まちが)えて(おぼ)えてしまい、あとでハルじいさんに笑われてしまいます。


 そして、子供(こども)たちが家の前に立っているおじさんに「トリック・オア・トリート!」とか「お菓子(かし)をくれないといたずらするぞ!」と言っています。

「こらっ! そんなこと言っちゃだめだぞ。お菓子(かし)は、自分(じぶん)のおこづかいで買うんだぞ!」
 ぽーは、プンプン(おこ)ってます。

 しかし良く見ると、おじさんは(わら)いながらキャンディを(わた)しました。



「ん? どうしたんだろう?」

 ぽーが不思議(ふしぎ)に思っていると、女の子の声が聞こえてきました。 

「ねえ、おばあちゃん」

「ん? なんだい、ゆみか」

「あの男の子が言ってるトリック・オア・トリートってなに?」

「ああ、お菓子(かし)をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ! っていう意味(いみ)だよ」

 かわいらしい(ちょう)羽根(はね)がついた衣装(いしょう)をきた小さな女の子とおばあさんが(はな)しています。

「へえ……」

「ハロウィンの時の合言葉(あいことば)変装(へんそう)をした子供(こども)たちが、家の玄関(げんかん)大人(おとな)に言うと、お菓子(かし)をもらえるんだよ。ほら、あのおじさんのところに行ってきな」

 ゆみかちゃんは、(やさ)しそうなおじさんのところに行くと、(はじ)めはモジモジしていましたが、やがて勇気(ゆうき)を出して「トリック・オア・トリート!」と言いました。

 おじさんは、ニコニコしながらキャンディの(ふくろ)をとり出すと「ハッピーハロウィン!」と言って、ゆみかちゃんにキャンディを(わた)しました。

 ゆみかちゃんはとってもうれしそうに「ありがとう!」と言って、おばあさんのところへスキップしながら(もど)ってきました。

「いいなあ。ボクもキャンディほしいなあ」

「トリック・オア・トリート!」
 ぽーは、(ため)しにおじさんのところで言ってみましたが、やはりぽーの声は(とど)きませんでした。



 そうして、ゆみかちゃんとおばあさんについて行くと、大きな木の下で立ち止まりました。

「ママ、いないね。どこいったんだろう?」
 ゆみかちゃんは、そう言ってまわりをキョロキョロしています。

「そうだねえ、この木の下で()()わせしたんだけどねぇ」

「ぐすん……えーん。ママどこー?」

「あらあら、ゆみか。たしか、ママは白雪姫(しらゆきひめ)魔女(まじょ)衣装(いしょう)だったよね」
 

「あ……っ、こないだのほなみちゃんの白雪姫(しらゆきひめ)に出てた魔女(まじょ)か! たしか……、黒いフードのついた(ふく)(つえ)をもってたな」

 ぽーは、ゆみかちゃんのママを空から(さが)すことにしました。


 ……しばらく(さが)していると、黒いフードに(つえ)をもった(うし)姿(すがた)が見えました。

「――あっ、あの人かな? 見つけた見つけた♪」

 ぽーは、黒いフードの人のところにうれしそうに(ちか)づいて前から見てみると……。

「わぁああ……!」

 ガイコツのお(めん)をした、死神(しにがみ)のおじさんでした。ぽーは(おどろ)いて空に飛び上がってしまいました。

「ああ、こわい」

 ぽーは空の上でブルブルふるえています。


 そして、ゆみかちゃんのところに(もど)ってみると、無事(ぶじ)にママと会えたようでした。

 しかし……

「あれ? アレが魔女(まじょ)? なんか(ちが)うような……。あれはお姫様(ひめさま)だよね」

 ゆみかちゃんのママは派手(はで)衣装(いしょう)で、お化粧(けしょう)もバッチリなお姫様(ひめさま)のような魔女(まじょ)でした。

 しかし、ゆみかちゃんのうれしそうな(かお)を見ていると、ぽーもホッとして飛びたちました。

「よかったね、ゆみかちゃん。じゃあね」



 ぽーは雲の階段(かいだん)を上がっていきます。

 そして、ぽーの世界(せかい)への(とびら)()けると、そこにハルじいさんが立っていました。

 (とびら)には、さっき見たカボチャの()わりにワポの実をつかったランタンが(かざ)ってあります。

「じいちゃん。どうしたの?」

「ほら、ぽー。なんか言うことあるじゃろ」
 ハルじいさんはそう言ってニッコリ笑いました。


「ん? ……あっ、分かった! トリック・オア・トリート!」


「ハッピーハロウィン!」
 ハルじいさんは手作(てづく)りの大きなキャンディをぽーにあげました。

「やったー! じいちゃん、大好(だいす)き!」
 ぽーは、そう言ってハルじいさんに()きつきました。

 この日は、ぽーにとってとても(たの)しいハロウィンの日になりました。
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