第13話 てがみ

文字数 2,303文字

 ある日の(あさ)、ぽーはコロの家でコロとお話をしていました。

 今日(きょう)は、小学校(しょうがっこう)(やす)みの日。あすかちゃんも家にいるので、コロも(そと)には(あそ)びにいけません。でも、ぽーとコロはとっても(たの)しそうです。

「あはは。それはコロがわるいよ」
「わん」
「うんうん、そうだね」
「わわわん」


 ガチャ

 すると、玄関(げんかん)のドアが(ひら)いて、あすかちゃんが出てきました。

「コロは今日(きょう)もご機嫌(きげん)だね……」
「わん」

「ん……? あすかちゃん、どうしたんだろう?」
 ぽーは、あすかちゃんの様子(ようす)がおかしいことに気づきました。

「あすかはね、今日(きょう)元気(げんき)ないんだ……。仲良(なかよ)しのお友達(ともだち)が、ひっこしちゃうの」
 あすかちゃんはそう言うと、(かな)しそうにコロの(あたま)をなでています。

「くぅーん」
「そうだね。あすかちゃん、かわいそうだね」
「よし、コロ。じゃあ、お友達(ともだち)のななちゃんにお(わか)れに行くから、一緒(いっしょ)についてきてくれる? おてがみも(わた)したいし……」
「わんわん」
 
 あすかちゃんは、コロのリードを()ちました。そして、みんなでななちゃんの家に(ある)いていきます。

「小さいときから、ずっとななちゃんとは一緒(いっしょ)だったな……。コロもたくさん一緒(いっしょ)にあそんだよね」
「わん」


 しばらく、あすかちゃんとコロが(はな)しながら(ある)いていると、男の子の自転車(じてんしゃ)が、すごいスピードで(はし)ってきました。

「あぶないっ!」

 自転車(じてんしゃ)は、あすかちゃんとぶつかりそうになりました。
 ぽーはその瞬間(しゅんかん)、あすかちゃんとコロを(みち)(はし)()しました。

 なんとかギリギリ、あすかちゃんとコロは自転車(じてんしゃ)とぶつかりませんでした。

「あー、あぶなかった。ごめんよ」

 男の子は、自転車(じてんしゃ)(はし)らせたまま(あやま)ると行ってしまいました。

 ぽーは、その男の子を()っかけると「ダメだぞ、あぶないな!」と言いながら、(あたま)をコツンとしてやりました。

「いたたっ! あれ……なんだろう?」
 男の子は、不思議(ふしぎ)そうな(かお)をして行ってしまいました。

「あぶなかったね、コロ。だいじょうぶだった?」
「わん」
「コロがおしてくれたんだね、ありがとう」
 あすかちゃんは、そう言ってコロの(あたま)をなでました。
「わん、わんわん」
 コロは、(ちが)うよ、()してくれたのはぽーだよ、と言っています。
「ふふ、いいよ。コロ」と言って、ぽーはコロにニコリとしました。


 そして、あすかちゃんは、コロと一緒(いっしょ)にまた(ある)きはじめました。


 ところが、道路(どうろ)にはあすかちゃんがななちゃんに()いた大切(たいせつ)手紙(てがみ)()ちたまま……。



 しばらく(ある)いていくと、ななちゃんの家につきました。

 ななちゃんのパパが、たくさんの荷物(にもつ)を車にのせています。

「あ……っ、あすかちゃん」
 ななちゃんのパパは、あすかちゃんに気づくと、手をとめてニコリとしました。

「こんにちは」
「ちょっと まってね。おーい、なな。あすかちゃんが来たよー」
「はーい」

 (すこ)しすると、家の中からななちゃんが出てきました。ななちゃんも元気(げんき)がありません。

「ななちゃん、おわかれだね……」
「うん……、あすかちゃん。いままで、どうもありがとう」
 そして二人は、ハグをしました。目にはたくさんの(なみだ)があふれています。

「ぐすん」
 ぽーもななちゃんのパパも()いています。

 そして、しばらくななちゃんとあすかちゃんは(はな)しました。


「……じゃあ、なな。そろそろ行こうか。あすかちゃん、ごめんね」
 ななちゃんのママが、あすかちゃんに言いました。

「あすかちゃん、……じゃあ、もう行かなくちゃ」
「うん、じゃあね。ななちゃん」
「いままでありがとう。たのしかったよ、あすかちゃん」

「うん……、これを……、あれ?」
 あすかちゃんは、カバンの中やスカートのポケットを(あわ)てて(さが)しました。
「どうしたの?」
「てがみ……がない……」

 あすかちゃんは、もう一度(いちど)ポケットを(さが)しますが、手紙(てがみ)見当(みあ)たりません。


「――あっ、きっとさっきのじてんしゃのときだ!」
 そう言うと、ぽーは(いそ)いで(さき)ほどの場所(ばしょ)まで飛んでいきます。そして、道路(どうろ)()ちている手紙(てがみ)(ひろ)いました。


 しかし、ぽーが手紙(てがみ)()ってななちゃんの家に(もど)ってくると、もう車は見当(みあ)たりません。
 そして、あすかちゃんはうずくまって()いていました。

「コロ、これ!」
「わん、わわん」

 コロがほえると、あすかちゃんは手紙(てがみ)に気づきます。

「あ……っ、てがみ! コロが見つけてくれたの?」

「わん」 
 いや、ぽーだよ、と言っていますが、あすかちゃんには()かりません。
「でも……、どうしよう、これ」

「わわわん」

 まかせといて、と言うと、コロは車がむかった方向(ほうこう)にダッシュで(はし)っていきました。ぽーも、その(あと)をついて行きます。


 ……しばらく(はし)っていくと、ななちゃんの車が信号(しんごう)でとまっていました。

「わん、わん」
 コロは、大きな声でほえました。

「あれ……? コロだ。どうしたんだろう?」
 ななちゃんが、()(かえ)ってコロの声に気づきました。しかし、車は(うご)きだしてしまいます。

「コロ。ボクにてがみを(わた)して!」

 ぽーは、コロがくわえていた手紙(てがみ)()()ると、ななちゃんの車にむかって飛んでいきます。そして、ななちゃんがいる(うし)ろの座席(ざせき)(すこ)()いた(まど)から手紙(てがみ)を入れました。

「あっ、あすかちゃんのてがみだ!」



 ……しばらくして、ぽーとコロはあすかちゃんのところに(もど)ってきました。

「わん、わん」
「え……っ! コロがてがみをななちゃんに(とど)けてくれたの? ありがとう」
 あすかちゃんは、うれしくて(なみだ)(なが)しながらコロを()きしめました。


「よかったね、あすかちゃん。――あっ、でも今日(きょう)は、ちょっとむりしちゃったかな。早くワポの実を()べに(かえ)ろうっと♪ じゃあね、コロ。バイバイ」



 今日(きょう)も、カラーン♪、コローン♪と、(やさ)しい(かね)の音が、雲の上にある教会(きょうかい)から()(ひび)いていました。




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