『赤心』王子の本心

文字数 2,271文字

 すると 今度は、『麗ら』を救った
≪火星王国≫の使者『セイソウ』が
『極月光天』に別れの挨拶(あいさつ)をした。


 「皇帝陛下。それでは、私は これで。。。」

 「『麗ら』の命を救ってくれた そなたの

ことは 生涯忘れない。

 礼を申すぞ。

 『赤心』王子によろしく伝えてほしい。」

 「はい。 

 陛下のお役に立てて この『セイソウ』、

たいへん光栄に思っております。

 陛下のお言葉は、必ず王子様にお伝えいた

します。」

 「ところで、『赤心』王子は 今どこに?」

 「。。。。。。。。。。。」

 「遠征にでも行っておられるのか?」

 「。。。。。。。。。。。」

 「実は、『さえずり』目掛(めが)けて矢が向かって

きた時、『赤心』王子が『さえずり』を助けて

くれたのだ。

 後日、正式に≪火星王国≫へ出向き、今回

の礼がしたいと思っている。」

 「陛下。。。」

 「もしや。。。

 『赤心』王子に何かあったのか?」

 「実は。。。」

 「さしつかえなければ 聞かせては

くれぬか?」


「。。。。。。。。。。。。

 かっ固く口留(くちど)めされておりましたゆえ、

何もお話せずに 火星へ戻るつもりでおり

ました。」


「口留め? どういうことだ?」

「千三百年前、この地で『せせらぎ』さまの

亡き後、生きる気力を失っておられた

『さえずり』さまを救ったのは 王子様で

ございます。」

 「『赤心』王子が?」

 「父上。 

 それは 本当のことです。

 私は、確かにもう少しで死ぬところを

『赤心』王子に救われ、共に火星へ向かい

ました。」

 黙って双方のやり取りを聞いていた輝羽
は、その使者の言葉を後押しするようにそう
説明した。

 命の恩人である『赤心』王子のことを
父である『極月光天』に話すべきだと
思ったのである。


 「私は、『赤心』王子のお陰で 九死に一生を

得たのです。」

 「そうであったか。。。」

 「『赤心』王子は、その時 火星と帝国の国交

回復のために 父上を説得してほしいと私に

頼んできたのですが。。。」

 「お前はそれを断り、地球へ向かったの

だな?」

 「はい。 王子には何もお礼ができず、

私は、今まですべての記憶を封印していた

ため、ご報告も出来ませんでした。」

 「『赤心』王子には何度も助けられた。

 天文師の子孫が発見した例の密約の契約書

を、その子孫に代わって余の元へ届けてくれ

たのも『赤心』王子。

 先ほど『麗ら』と『さえずり』を救ってくれ

たのも『赤心』王子。

 そして、千三百年前 『さえずり』の命を

救ってくれたのも、また『赤心』王子か。。。」

 「王子様もこの地球という惑星が たいへん

お好きでした。

 そして、この地で 人々の幸せのために

尽力されていらした『せせらぎ』さまと

『さえずり』さまのことを いつも見護って

いらっしゃったのです。

 ところが 地上で雨がまったく降らず、

人々が悲惨な状況にある中、お二人の祈りも

(むな)しく、一向に帝国から何らの救いの手も

伸びないことで、急ぎ≪龍王国≫に向かい、

すぐに雨を降らすよう国王陛下に依頼された

のも王子様でした。

 そして、そのあとすぐにこの地へ(おもむ)き、

『さえずり』さまを救ったのです。」

 「(われ)が、自ら『赤心』王子に逢って ぜひとも

礼がしたい。

 『赤心』王子は、今 どちらにいらっしゃる

のだ?」

 輝羽が、そう『セイソウ』に尋ねると、
『セイソウ』は、

 「そっ、それは。。。」


 「何か言えない理由(わけ)があるのだな? 

 それなら無理に言わずともよい。」


 その『極月光天』の言葉を聞き
『セイソウ』は、いたたまれなくなった。

 そして、真剣な表情で 思い切って真実を
告げたのである。

 すべては、『赤心』王子を想ってのことで
あった。


 「へっ。。。陛下。。。申し上げます。」

 「何だ。。。?」


 「『赤心』王子様は。。。王子様は。。。

 今、人間として この地球に転生して

いらっしゃいます。」



(あやつめっ、余計(よけい)なことを。。。)


 その時、輝羽に一瞬 聞こえた声。


 その声。

 聞き覚えがあった。



 夏休み。

 オープンキャンパスで 高校生に大学の説明
をするため 大学の大講堂近くのベンチで同じ
学部の同級生、花畑(はなばたけ)(みちる)を待っていた時。

 自分をじっと見つめる視線を感じながらも
それが誰なのかわからなかった。


 ただ、「『さえずり』。。。」

 そう自分にささやく声。

 その声だけは ずっと耳に残っていた。


 そして やっと今、その声の(ぬし)が 誰だった
のか わかったのである。


 『赤心』王子だったのだ。


 「それでは 『赤心』王子は、人間として

この地にいるというのか?」

 「はい。」

 「しかしどこに。。。

 この国にいるのか?」

 「そっ、それは。。

 それは、わかりません。

 ただ 時々、『赤心』王子様より指令が

届き、 私は その指示に従うだけでございます

ゆえ。。。」

 「なぜ あえて人間に。。。? 

 『赤心』王子には、火星ですべきことが

たくさんあるはず。

 それに、現国王も かなりのご高齢であら

れる。

 転生したのは いつごろなのだ?」

 「二十年前、 『さえずり』様がこの世に

お生まれになったのと同じ年に。。。」

 「なに? それでは『さえずり』と 年は同じ

と申すか?」

 「はい。陛下。

 。。。。。。。。。。。。。

 陛下。。。

 王子様が ここまでなさるのには 理由(りゆう)

ございます。」


 「何だ?」


 「王子様は。。。

 『赤心』王子様は、『さえずり』さまを

心からお(した)いしていらっしゃるのです。」


 『セイソウ』は、意を決して『極月光天』に
すべてを話した。

 『さえずり』を 心から愛する『赤心』王子
の気持ちが、常に(そば)にいた『セイソウ』には
痛いほどよくわかっていたからである。


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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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