親子の対決

文字数 1,624文字

 意外にも最初に口を切ったのは、父の方で
あった。


 「()びの言葉はないのか? 

 帝国のすべての(たみ)を裏切り、千三百年もの

間、行方(ゆくえ)をくらましていたその罪は、極刑に

値する。」


 「そのお言葉。

 すべてそのまま あなたにお返しいたし

ましょう。」


 「なに?」


 「『さえずり』さまっ。

 陛下に向かって無礼ですよっ。」

 皇帝と共に現れた三体の側近のうちの
一体、副帝の『チュウチョウ』が、厳しい
口調で輝羽を叱責(しっせき)した。


 「この千三百年間、皇帝陛下は、ずっと

『さえずり』さまを捜し続けていらした

のです。

 忙しいご公務の合間を縫って、至る所へ

出向き、この地球にも、何度足を運ばれた

ことか。。。


 陛下、すべては『せせらぎ』の仕業(しわざ)

 『さえずり』さまは、『せせらぎ』に

かどわかされたのだと思われます。」


 この時、輝羽は、『せせらぎ』を侮辱し、
彼の人格を何のためらいもなく(おとし)める側近の
『チュウチョウ』に対する怒りが、ぐっと
込み上げてきたのであった。

 そして、そんな最低な側近の本性も見抜け
ず、そんな(やから)をずっと(そば)にはびこらせている
自分の父を見ていると哀れにすら思えたので
ある。


 「もはやあなたの(そば)には、こびへつらう

側近と、真実を()じ曲げ、事実無根の嘘偽(うそいつわ)

を言いふらす側近しかいないようですね。」


 「皇帝陛下に対して何と無礼な。。。」

 もう一体の側近、軍の副司令官
『シッコク』も輝羽を強く非難した。


「無礼なのは、いったいどちらでしょう? 

 嘘偽りはおやめください。

 私は『せせらぎ』にかどわかされてなど

おりません。

 私は、自らの意志であえて帝国との《縁》を

一時的に絶ち切っただけ。

 その《縁》を再び(よみがえ)らせたのは。。。


 父上っ。

 あなたと。。。

 あなたと刺し違える覚悟で臨むため

ですっ。」


 「おやめくださいっ。

 『さえずり』さまっ。

 たとえ皇女殿下(こうじょでんか)であろうと、お父上である

皇帝陛下に対する侮辱(ぶじょく)は、絶対に許されませ

んぞっ。」


 『チュウチョウ』は、声を荒げて再び輝羽
に言い返した。


 「私は、父と話しているのです。

 父の(そば)に、ただはびこっているだけの

あなた方と話しているのではありません。」


 そう言い放つと、輝羽は、皇帝の目を
ぐっとにらみつけ、こう続けたのである。


 「父上。 

 これ以上、帝国の(たみ)を苦しめるのはおやめ

ください。

 配下にある国々の民の叫びが、あなたには

聞こえないのですか? 


 あなたという権力を(かさ)に着て、民から

あらゆる財を奪取(だっしゅ)したり、

(そで)の下を受け取って私腹を()やしたり、

自らの罪を他の者に(なす)り付けて、

平然としているような(やから)を周囲にはびこら

せ、それであなたは頂点に立ったおつもり

ですか?

 本当に苦しんでいる末端(まったん)の民たちに手を

差し伸べようともしない。

 そんなに意見されるのがお(いや)ですか?

 批判されるのが気に入りませんか?

 そんなに誇りが大切ですか?


 あなたの誇りとは批判されぬこと。

 意見されぬこと。

 あなたより優れた能力や考えを持つ者を

排除すること。


 そんなものは、誇りでも何でもない。


 単なる虚栄心(きょえいしん)傲慢(ごうまん)の極みですっ。」



 ≪月界帝国≫皇帝『極月(きょくげつ)光天(こうてん)』に誰一人と
して言えなかったこと。

 近づくことすら恐れ多い雲の上の、
そのまた上の存在。

 その存在に、ついに輝羽は、きっぱりと
そう言い切ったのである。


 もはや恐怖などなかった。

 その恐怖に耐えられず、帝国を去って行った
多くの民。

 その暴帝ぶりに失望し、他の国へ移住して
しまった者。

 無念の思いで失意の中、自ら命を絶った者
たちも。


 数え切れぬほど多くの者たちの思いが
まるで一つになり、輝羽の主張の後押しを
してくれているかのようであった。


 「言わせておけば。。。

 ()()びるどころか。。。


 どうやら再び帝国と《縁》を(つな)いだのは、

 ()侮辱(ぶじょく)するためのようだな。


 言いたいのはそれだけか。

 本来なら釈明の機会など一切与えず極刑に

処すところだが、最後にその機会を与えられ

ただけでもありがたいと思え。


 お前を死に追いやることなど容易(たやす)

ものだ。」

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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