昇龍家の≪神託≫

文字数 1,015文字

 昇龍家には、代々受け継がれてきた家訓
以外にも、《神》から託された≪神託(しんたく)≫が
いくつも存在している。


 門外不出(もんがいふしゅつ)のこの≪神託≫。


 その中の一つ、輝羽にまつわる≪神託≫
が、今、紐解(ひもと)かれようとしているので
あった。



 ≪神託≫とは、《神》より託される言葉。

 《神》に代わって、《神》のご意思を果た
すこと。

 それは、《神々》に(とど)まることなく、
あらゆる《聖なる存在》からの言葉をも
含むものである。



 その≪神託≫を紐解(ひもと)き、来たるべき時に
備え、《神》からの天啓(てんけい)を待つ。


 昇龍家は、この非常に重要な使命を(にな)って
いるのである。


 《神》の依頼を引き受ける以上、常に
《神》からの信頼を()るに足る者として、
日々の修練は欠かせない。


 何より自分自身を(りっ)し、一切の[邪念(じゃねん)]や
不安、恐れを振り払い、心身ともに常に浄化
された状態を保たなければならないのだ。


 一流の祈祷師とはいえ、みな人間。


 迷うことも悩むことも、そして、苦しむ
こともある。


 それをどう克服し、どう乗り越えるか。


 導光は、この祈祷師という道を目指すと
心に決めた時、その高く分厚い壁の向こうに
いる自分を想像し、乗り越えることに成功し
てきた。


 時には高い壁をよじ登り。。。


 時には分厚い壁をぶち壊し。。。


 もちろんイメージの訓練の中で行ってきた
ものであるが。


 常に冷静沈着。


 目を閉じ、耳を傾け、漂う香りの変化を
()ぎ分け、その肌で感じ取る。


 あらゆる感覚を()ぎ澄まし、ただただ無心
になって世の音を意識する。


 ところが、そんな導光でも、いざ家族の
こととなるとどうしても心が揺らいでしまう。


 愛する妻、そして子どもたち。


 幸せになってほしいと願う家族のこととな
ると、導光の鉄壁の(じん)にも(ほころ)びが。。。
というところであろうか。





 娘の輝羽に関わる重要な≪神託≫。


 それは千三百年ほど前に(さかのぼ)るものである。



 太古の昔、《神々》と人間の距離は、
今よりもずっと近く、《神々》は人間に
とってもっと身近な存在であったらしい。


 あることがきっかけで《龍神》と深い縁を
持つことになった昇龍家の始祖(しそ)が、二千年
ほど前にその《龍神》と(ちぎ)りを交わし、その
加護の(もと)、神官として人々を幸福に導いてき
たのが昇龍家の始まりとされている。

 それから七百年ほど(のち)

 今から千三百年前、当時の昇龍家当主で
あった『先立(せんだつ)』は、自らが(つか)えたその
《龍神》と共に、歴代の先祖のごとく、
実にたくさんの人々に数多(あまた)の幸福をもたら
し、彼らを正しき方向へ導いてきたので
あった。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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