≪月界帝国≫の国鳥『鳳凰』の出現

文字数 1,242文字

 昼間と見紛(みまが)うような明るい光が、導光の
屋敷の庭を煌々(こうこう)と照らし始めた。

 夜明けが 近づいてきたのである。

 雲一つない澄み切った群青(ぐんじょう)の夜空は、
次第に東雲色(しののめいろ)に変わりつつあった。


 すると 突然。。。

 その夜空に、五色(ごしき)の雲が浮かんだ。

 【瑞雲(ずいうん)】とも言われるこの雲が現れる時。

 それは《吉兆(きっちょう)》を知らせる合図。

 見上げると、どこからともなく一羽の鳥が
やって来た。

 『極月光天』は、その鳥に向かって 手を
振った。


 そう。 

 その鳥こそ、≪月界帝国≫の国鳥 『鳳凰(ほうおう)』。

 星のように(きら)めく銀色の羽を持つ、豊かな
自然を象徴する鮮緑(せんりょく)の鳥。

 すらりと長い尾から発する黄金の光流(こうりゅう)は、
()(めぐ)る空に金の動線を描いている。

 五色(ごしき)の雲である【瑞雲(ずいうん)】同様、《瑞鳥(ずいちょう)》で
ある『鳳凰(ほうおう)』が その姿を見せる時。

 それは、その国に≪太平の世≫がやって
来る前兆を意味する。

 実に 三千年以上もの間、帝国では、
その美しい『鳳凰』の姿を見た者は 誰も
いなかった。

 間もなく帝国に訪れるであろう《平和》。

 それを知らせるために、『極月光天』の元へ
やって来たのである。

 『鳳凰』は、同時に皇帝の移動手段でも
ある。

 聖なる品格を備えた『鳳凰』は、その背に
乗せる者を自ら選ぶ。

 ≪月界帝国≫ 皇帝『極月光天』は、選ばれ
たのである。

 その『鳳凰』に。

 そして 『鳳凰』は、迎えに来たのである。

 長きに渡る戦いに ついに終止符を打ち、
帝国を救った英雄を。

 これから帝国には、再び平和な世がやって
来る。

 それは、この『鳳凰』によって確かに約束
されたのであった。

 民を(いつく)しみ、想いやる《(じん)》を心に
秘めている勇者の元に現れると言われて
いる『鳳凰』。

 これから『極月光天』は、《仁》を重んじ、
《仁》の政治を行い、帝国の繁栄と民の幸福
を実現すべく尽力するであろう。


 ついに『鳳凰』は、陣の中に舞い降りた。

 厳しい眼差(まなざ)しで『極月光天』を見つめて
いる。

 そして 『極月光天』に向かって (こうべ)()れた
のである。


 その時、導光には 『極月光天』に語りかけ
る『鳳凰』の声が聞こえた。


 (『極月光天』さま。

 ≪月界帝国≫を救ってくださり、

ありがとうございました。

 ようやく帝国に 再び 平和が戻ってまいり

ます。


 まずは、帝国の安泰(あんたい)を願い、散って()った

すべての者たちを(とむら)いましょう。

 そして、あなたを信じて力を貸してくだ

さった多くの方々に感謝をいたしましょう。


 それは。。。

 『極月光天』さま。。。

 あなたご自身が、そのお心に《仁》を秘め

ていらっしゃるから。

 あなただからこそ、成し得た偉業なのです。

 姿を消した後も、私は あなたの その揺るが

ない《愛》ある《仁》の魂を信じ、多くの

存在に働きかけてまいりました。

 やっと それが実を結び、私は 感無量でござ

います。

 どうかこれからも そのお心のまま、帝国の

繁栄に寄与されることを期待しております。)


 (そなたの その言葉。

 けっして忘れはせぬ。

 よくぞ、余を迎えに来てくれた。

 そなたの影の支えは 余も知っていた。

 礼を申す。)

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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