≪龍王国≫へ

文字数 1,243文字

 『赤心』王子は、急ぎ火星より地球へ向か
う途上にある≪龍王国≫に来訪した。


 その国は、『さえずり』の母、『(うら)ら』の
生まれ故郷。


 ≪龍王国≫と≪火星王国≫は、長きに渡り
友好な関係を築いてきた。


 ≪火星王国≫と≪月界帝国≫の国交が断絶
した後も、≪火星王国≫と≪月界帝国≫両国
の関係改善に尽力し続けてくれている
≪龍王国≫。

 ≪龍王国≫は、≪火星王国≫にとっては
もっとも信頼のおける友好国のひとつなので
ある。


 『赤心』王子は、王国の門の前に立つ
二体の《龍》の門番に国王との謁見(えっけん)を願い
出た。


 ≪火星王国≫から『赤心』王子が来訪した
と聞くと、≪龍王国≫の国王は、自ら門の
ところまで『赤心』王子を出迎えたのである。

 「国王陛下。。。

 たいへんご無沙汰しております。」


 「これは、これは。。。

 『赤心』王子。

 こちらこそ。

 息災でいらっしゃいますか?」


 「はい。お陰様で。」


 「陛下。。。

 お願いがございます。

 今すぐに≪龍王国≫のお力で、地球のある

地域に恵みの雨を降らせていただきたいの

です。」


 「恵みの雨を? 

 ≪火星王国≫からそのような要請があると

はなんとも珍しい。

 通常このような依頼は≪月界帝国≫から

なされるものなのですが。」


 「陛下の姪御様(めいごさま)が。。。

 『さえずり』さまが大へんなのです。」


 「なんですと。。。『さえずり』が?」


 「はい。

 現在、『さえずり』さまがお護りになってい

る地球のある地域には、もう長く雨が降って

いないようなのです。

 ≪月界帝国≫に思念を送り、救いを求めて

いらっしゃるようですが、いっこうに雨は

降らない。

 『さえずり』さまの救いを求めるその声は、

≪月界帝国≫には届いていないのではないか

と思われます。」


 「なんということだ。

 それでは妹の『麗ら』もさぞかし娘の

『さえずり』のことが心配でしょう。

 すぐに雨を降らせるよう手配いたします。」


 「ありがとうございます。 陛下。

 私は、これから地球へ向かいます。

 実は、いつも地球におられる『さえずり』

さまを見護っておりましたが。。。

 その『さえずり』さまが大へん危険な状況に

あるように感じるのです。

 ()が国は、現在≪月界帝国≫との国交が

ございません。

 急いでその状況を皇帝陛下にお知らせくだ

さい。

 一刻の猶予もございません。

 私は、これから『さえずり』さまを捜しに

地球へ(おもむ)きます。

 なんとか無事でいらっしゃればいいの

ですが。。。」


 「『赤心』王子。

 本来なら≪月界帝国≫と姻戚(いんせき) 関係にある

我が国が『さえずり』を救わねばならぬ

ところを。

 なんとお礼を申し上げたらよろしい

のか。」


 「礼など必要ありません。

 それでは、私はこれで。」


 『赤心』王子は、そう言い残すと地球へ
向けて飛び立った。


 ≪龍王国≫から地球までどんなに急いでも
三、四時間はかかる。


 「『さえずり』さま。。。

 私があなたの元にたどり着くまでどうか

ご無事で。。。」


 ただただ『さえずり』の無事を祈りながら
(あせ)る気持ちを抑え、『赤心』王子は地球へ
向かって旅立って行った。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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