輝羽の転機

文字数 809文字

 祈祷師 昇龍 導光は、ここ最近、娘の輝羽(てるは)
背後に薄っすらと浮かび上がる光の気配を感じ
ていた。


 (もしかしたら。。。

 とうとうその時がやって来たのかもしれ

ない。。。)



 あの時。


 『赤いバラの花の女神 マリア』からの
依頼で、あるミッションを託されたあの時。


 その『マリア』が予言した輝羽(てるは)の転機。

 導光は、あの場では、あえてそれには深く
言及しなかった。

 そうしてはいけなかったからである。

 これは、あくまで輝羽(てるは)の問題。

 輝羽自身が、まず、それに気づかなければ
ならないこと。





 その夜、導光は、イギリスのロンドンに
滞在している妻の『澄子(すみこ)』に電話をかけた。


 「導光さんの言うとおりだと思うわ。

 いよいよその時が来たのね。」


 「ああ。

 輝羽が生まれた時。

 いつかはこの日がやって来る。。。

 そう思ってはいたが。。。


 とうとうその時がやって来たようだ。」


 「そうね。

 あなたの腕の見せ所ね。

 輝羽は、あなたに願いを託し、あなたを

父親として選んだのだから。


 すぐには無理だけど、一週間以内には

日本に戻れると思うわ。


 『縁成(えんじょう)』は里帰りする気はないみたいよ。

 イギリスで気の合う友人がたくさんできた

らしくて。

 みんな日本が大好きな子たちらしいの。

 嬉しいわね。


 ≪日本人≫として誇りに思うわ。」


 「そうだな。

 私は、この≪日本≫という国に生まれ、

≪日本人≫として生きてきたこと、誇りに

思うよ。」


 「あらっ? 

 私は、あなたが夫であることが何よりの

誇りよ。」


 「Flattery will get you nowhere!」
(日本語訳:お世辞を言ってもダメだよ。)


 「まあ。

 いつの間にそんな英語を覚えたの?」


 「もう昔のことさ。

 大学生だったころ、何かでこの言葉を耳に

して。。。

 面白い表現だと思って。

 ずっと頭にあったんだが、なかなか使う

機会がなくてね。


 今、君にそう言われて、

(あっ、やっと使うチャンスが来た!)

 そう思っただけさ。」

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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