過酷な使命

文字数 1,128文字

 この事実が、もし[悪意]のある第三者に知ら
れてしまったら大惨事を招きかねない。

 先代の皇帝も密かに【月帝源】の行方を
(さぐ)っていたが、一向にその在処(ありか)を突き止める
ことができず、その使命は、現皇帝である
『極月光天』に引き継がれることになった。

 幾重(いくえ)もの見えない壁が張り巡らされ、
水すらも()らさぬよう厳重に保管されて
いたはずの【月帝源】を一体誰が、どう
やって、何の目的で盗んだのか。

 四千年以上も三代に渡る皇帝に課された
過酷な使命。

 その使命は、『極月光天』が皇帝に即位
し、『麗ら』を妃に迎えてから十年後、
『さえずり』が生まれてから間もなく父で
あった前皇帝から引き継がれた。


 父からの遺言。


 それは。。。


 言うまでもなく、優先すべきはこの二つ。

 一つ、
 必ずや【月帝源】を取り戻すこと。

 二つ、
 盗んだ犯人を極刑に処すること。


 そして、それを成すための心得。

 それこそが『極月光天』にとっては、
心が張り裂けるほど(つら)く、葛藤(かっとう)せざるを
得なかったものであった。

 父から課されたその使命は、あまりにも
過酷(かこく)なもの。

 【月帝源】を取り戻すまで、果たして自分
はその(めい)に従い、それを(つらぬ)いていけるのだろ
うか。。。


 『極月光天』にとっての苦悩の日々は
続いた。


 だが、その葛藤と向き合い、それを乗り
越えなければ帝国が滅びてしまう。

 押しつぶされそうなほどに耐え難い
苦痛。。。


 それは、まさに生き[地獄]。

 前皇帝である『極月光天』の父もまた、
孤独と戦いながら、ずっとその[地獄]の
苦しみに耐え続けてきた。


 そして、父は息子に託したのである。


 (おのれ)(すさ)まじき運命を。



 《誰も信じるな。》

 《周りはすべて敵だと思え。》

 《家族にもけっして打ち明けるな。》

 《(なさ)けをかけるな。》と。



 《非情(ひじょう)な皇帝となれ。》

 《冷酷(れいこく)な皇帝であれ。》


 もし【月帝源】が[悪]の手に渡れば、国の
均衡(きんこう)(くず)れ、帝国は崩壊(ほうかい)する。

 帝国の将来を(まこと)に案じている者ならば、
皇帝に失望し、離れていく。

 だが、逆にすり寄って来る者あらば、
その中に必ず犯人がいる。

 
なぜなら、例え【月帝源】を手に入れよう
と、【月帝源】に張り巡らされた強固な結界(けっかい)
は、誰にも(くず)すことはできない。


 そのカギを握るのは歴代の皇帝のみ。


 その結界を崩さない限り、帝国を牛耳(ぎゅうじ)
ことは、絶対にできないからであった。


 わずかでも心揺らげば、【月帝源】は、
たちまち[反逆者]の手に落ち、帝国は悲惨な
末路を辿(たど)ることになる。


 それだけは、何としても食い止めなければ
ならなかった。


 そして、ついに。。。


 三代に渡る皇帝の悲願。

 その【月帝源】が、ようやく見つかったの
である。

 密命を受けた使者二名が、三代もの長きに
渡りその使命を継承し、ついに【月帝源】を
奪還(だっかん)したのであった。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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