『せせらぎ』との再会

文字数 1,145文字

 『輝羽』は、まだ『さえずり』として記憶の
中にいた。

 すると突然。。。

 周囲は、あの時の草原に変わった。


 『せせらぎ』と共に《月》に祈りを捧げて
いた場所。

 だが、そこは、干ばつで荒れ果てた草原で
はなく、かつての緑豊かな草原であった。


 『さえずり』は、小川の方へ向かった。

 なぜか、そこに行けば、『せせらぎ』に
逢える気がしたのだ。

 『せせらぎ』は、小川を眺めているのが
大好きであった。


 静かで柔らかな水の流れ。


 耳を澄ますと、小川の清々(すがすが)しい流れは、
我々に何かを語りかけてくるが(ごと)く、まるで
音を立てて踊っているように見える。

 『さえずり』は、その小川の(ほとり)に腰を下ろ
し、小川の水を両手ですくってみた。


 清冽(せいれつ)で美しい水。


 その冷たい感触が、よくこの小川で喉の
渇きを(うるお)していた『さえずり』の記憶を呼び
覚ました。

『せせらぎ』という名は、その小川の流れる
音が大好きであった『せせらぎ』が自らつけ
た名。


 ここは、本当に自然の宝庫。


 目をつむって耳を澄ますと、小川の
“せせらぎ”、鳥の“さえずり”、虫たちの
息遣(いきづか)い、そよぐ風、その風に揺れる草木。

 それらすべてを感じることができるので
ある。


 すでに人間に転生すると決心していた
『せせらぎ』。

 そんな『せせらぎ』に、『さえずり』の母
『麗ら』が、生まれたばかりの『さえずり』に
名をつけてほしいと頼んだのであった。

 『(うら)ら』は、『せせらぎ』の真っすぐで誠実
な温かい気性をとても気に入っていた。

 もしも許されるなら、()が子『さえずり』と
結ばれてほしいと願っていた。

 さえずる鳥たちの美しい声。

 まるで歌っているかのような鳥たちの声も
『せせらぎ』は大好きであった。


 『せせらぎ』にとって、『さえずり』は
何ものにも代えがたい存在。

 『せせらぎ』は、ずっと『さえずり』の力に
なりたい。。。

 そう思っていた。

 『さえずり』が成し遂げたかった願いが、
いったいどのようなものなのか、常に(かたわ)らで
『さえずり』を支えてきた『せせらぎ』には
痛いほどよく分かっていたからである。

 『さえずり』もまた、『せせらぎ』を
信頼していた。

 なかなか解決できない多くの難題も、
『せせらぎ』と二人でずっと乗り越えてきた。

 共に与えられた使命を(まっと)うし、苦楽を共に
し、数え切れぬほどの喜びも二人で分かち
合ってきた。


 『さえずり』が、しばらく小川の(ほとり)で昔を
(なつ)かしむように辺りの景色を眺めていると、


 「『さえずり』。。。」


 背後からそう自分を呼ぶ声がした。


 (なつ)かしい響きだった。


 『さえずり』と呼ばれていた頃の自分。


 そして、いつも優しく語りかけるように
自分の名を呼ぶ声。


 それが、『せせらぎ』であるということ
が、『さえずり』にはすぐに分かったので
ある。


 振り返ると、そこには、逢いたかった
『せせらぎ』がいた。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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