祖母からのメッセージ

文字数 1,732文字

 その頃、『さえずり』の母、『(うら)ら』は、
生まれ故郷の≪龍王国≫にいる母、『(なご)や』
の危篤の知らせを受け、≪龍王国≫に里帰り
していた。

 『(なご)や』は、音信不通になっていた
『さえずり』のことを、ずっと気にかけていた
のである。

 自分にも娘の『(うら)ら』にも成し遂げること
ができなかった帝国との全面対決。

 すべてを『さえずり』に託すと決めた
二人は、ただひたすら千三百年もの間、
『さえずり』からの便りを待ち続けてきた
のであった。



 『さえずり』が、【封印の蕾】を開花させた
瞬間。。。

 二人の元には、すぐにその開花の知らせが
届いた。



 「とうとう、この時がやって来ました。

 お母さま。

 『さえずり』が。。。『さえずり』が、

見つかったのです。

 大きく、大きく成長して。。。」


 『(うら)ら』は、意識のない母の『(なご)や』に
そう言葉を掛けていた。

 そして、朦朧(もうろう)とする意識の中で、『(なご)や』
が『さえずり』に思念を送っていることを
知ったのである。



 (『さえずり』。。。『さえずり』。。。)


 (誰?)


 (私の声がわかりますか?)


 (その声は。。。おばあさま?)


 (覚えていてくれたのですね。

 この祖母のことを。)


 (忘れるはずがありません。

 この『さえずり』は、幼き(おり)より、

おばあさまが大好きでした。)


 (ありがとう。

 間に合って良かった。)


 (えっ?)


 (私にも、ついに寿命が来たようです。)


 (おばあさま?)


 (もうすぐ私は、愛しき()が夫、

あなたのおじいさまの元へ旅立ちます。

 あの世で首を長くして、私のことを待って

くれているのです。)


 (おばあさま。

 そんなこと、言わないでください。)


 (あなたは、帝国にとって最後の(とりで)

 あなた以外に、帝国に新しい風を吹かせる

ことができる者は他にはいないでしょう。


 千三百年もの間、あなたは、人間として

何度も転生し、多くのことを学び、そして、

その経験を(かて)に成長してきましたね。


 あなたの持つ魂は、この世のどの魂よりも

美しく、素晴らしいものでしたが、さらに

より一層磨きをかけ、その輝きを増している

のが、この私にはよくわかります。


 あなたの祖母として、あなたのことを

誇りに思いますよ。)


 (おばあさま。。。)


 (『さえずり』。。。

 あなたには、≪龍王国≫の血が流れて

います。

 ()が国は、代々 《(じん)》を重んじ、国の民も

他国との友好も大切にしてきました。


 《龍》、それは、すなわち《(りゅう)》。


 《(とき)》に乗り、《波》に乗り、常に最善の

流れには順応しながらも、()しき流れには

けっして飲まれぬよう、他の流れに合流する

か、新たに進むべき流れを創ってきました。


 残念なことに、()が国が合流した国は、

悪しき流れに身を任せ、もはや清流は、

汚濁(おだく)一途(いっと)をたどる一方です。


 ()が≪龍王国≫は、その流れを司る資格を

持つ唯一の国。


 そして、その(けが)れた流れを清流に戻すこと

ができるのは、()が一族の血を引く者、

『さえずり』、あなただけなのです。



 大丈夫。

 あなたの(かたわ)らには、代々続く()が一族の

祖先、《龍王国》の民たち。。。

 そして、おじいさま、『(うら)ら』や私が

ついています。


 もし不安ならば、周りを見てごらんな

さい。


 ほらっ、見えるでしょう。

 かつて≪龍王国≫に生き、そして、

≪龍王国≫の民として生涯を終えた者たち、

すべてがついています。



 何より今のあなたには、あなたの父として

あなたと同じく《龍》の血を受け継ぐ(かた)が、

すぐそばにいらっしゃるでしょう。


 その方を信じ、その方の助けを借り、

その方と共に私たちの悲願を達成してくだ

さい。


 何よりその(かた)を父として選んだのは、

『さえずり』、あなた自身なのですから。


 ずっとあなたの(かたわ)らであなたを護ってくれて

いた『せせらぎ』も、おそらくすでにあなた

の元に姿を現しているころでしょう。


 私は、あなたがどれほど多くの存在から

愛されているのか、今、改めて思い知らされ

ました。


 愛しき()が孫娘。

 頼もしき()が孫娘。


 みな、あなたの味方です。


 みなを信じ、そして、何よりも自分自身を

信じ、立ち向かって行きなさい。


 悪しき流れを変えるのは、今なのです。)


 (おばあさま。。。我のために。。。

 ありがとうございます。


 おばあさま。 


 見ていてください。

 我は、必ずやり遂げて見せます。)

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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