『せせらぎ』、それはかけがえのない存在

文字数 792文字

 『せせらぎ』は、『さえずり』が最も信頼
していた相手。


 すべてを(ゆだ)ねることができるほどの存在で
あった。


 『さえずり』にとって、『せせらぎ』は
すべてだったのである。


 『せせらぎ』の死。


 その死と同時に『さえずり』の心を(むしば)
孤独。


 願い叶わぬ人生に絶望し、祖国を捨てる
決心をした『さえずり』。


 『せせらぎ』が死んだら、『さえずり』は
祖国に帰還しなければならなかった。


 地球にいられるのは『せせらぎ』が生きて
いる間だけ。


 それを条件に、人間として転生し、この地
に降り立つことを許された。


 それが、≪月界帝国≫皇帝の娘、
『さえずり』であった。


 帝国に戻れば、意に沿わぬ結婚を強いら
れ、もはや自由はない。


 説得すれども聞く耳を持たぬ父の(もと)では、
もうこれ以上生きていきたくはなかった。


 そんな(おろ)かな慣習に従うつもりも
なかった。


 死んだ『せせらぎ』の魂は、やがて帝国に
戻り、その瞬間、自らも帝国へと連れ戻され
ることはわかっていた。


 地上のどこにいようと、帝国から派遣され
た使者の居所はすぐに把握されてしまう。


 常に護衛(ごえい)監視(かんし)されているのだ。


 唯一、帝国からの監視の目が届かない場所
を『さえずり』は知っていた。


 (あの洞窟(どうくつ)に急がねば。

 もう、『せせらぎ』とは逢えない。。。

 帝国に戻ればいつかは再び逢えることも

あろう。

 だが、けっして結ばれることはない。

 ならば人間として生涯を送り、いつの日か

また人間として転生する。

 自分はその道を選ぶ。

 帝国との縁を絶ち、帝国の使者でもなく、

 ただひとりの人間として生まれたい。

 自分もそう長くはない。

 この洞窟(どうくつ)で、命尽き果て、(しかばね)になるその

時を待てばよい。)


 次第に遠のく意識の中で、目に浮かぶの
は、優しかった祖母や母の姿、いつも(かたわ)らに
いてくれた『せせらぎ』の姿だけであった。


 一瞬目の前が真っ暗になり、いよいよ自分
にも死が訪れるのか。。。


 そう思った瞬間。。。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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