《月帝源》、それは《月の雫》

文字数 1,629文字

 はるか遠い、遠い昔。


 宇宙を彷徨(さまよ)っている、ある存在がいた。

 ある日、その存在は、ひと(きわ)美しく輝く
光を見つける。

 その光は、《月》から放たれていた。

 《月》に到着したその存在は、その光を
求めてどこまでも進んでいく。


 すると、それは大きな岩陰(いわかげ)から発せられて
いることに気づく。


 「何と美しい石だろう。

 こんなに美しい石は見たことがない。」

 そう言いながらその石を手に取ると、どこ
からともなく声が聞こえてきたのであった。


 「この《月の(しずく)》でこの地に国を建てよ。

 そして、この限りなき宇宙に生きとし生け

(とうと)き存在のために力を尽くすがよい。


 そなたにその使命を託す。


 進むべき道が見い出せぬその時は、この

《月の(しずく)》がその道標(みちしるべ)となろう。


 けっして[邪心]を抱く者の手に渡すでない。

 それは、この《月の(しずく)》が一番嫌うもの。


 [悪]の手に渡った時。


 国は滅亡の一途(いっと)辿(たど)ることになろう。」


 不思議な声は、そこで途絶えた。


 するとその途端、手の中にあった
《月の雫》からとてつもない勢いで光が
あふれ出て来た。

 まるで滝のように真っすぐに下へ落ちる光。

 その光は、どこまでも、どこまでも流れて
いく。

 一体どこまで流れていくのか。


 その存在が、そう思った時。


 その光の流れは、急にこちらに向かって
逆流してきた。

 いや、逆流ではない。

 それは、二つの《(たま)》をこちらへ(いざな)うため
の【迎えの光流(こうりゅう)】だったのである。

 その【迎えの光流(こうりゅう)】に乗ってやって来た
二つの《(たま)》。

 それは、かつて地球で人間として生を
受け、多くの人々を救ってきた選ばれし魂。


 ひとつめの《珠》が秘めているもの。

 それは《仁徳》。

 もうひとつの《珠》が秘めているもの。

 それは《勇気》。

 
 そして、その《月の雫》を発見した存在。

 その存在も、やはりかつて地球で人間と
してその生涯を送り、天寿を(まっと)うした(あと)
魂となり、宇宙を彷徨(さまよ)い、第二の住処(すみか)
求めていた。


 その魂が秘めていたもの。


 それは《愛》。


 三つの《珠》なる魂は、《月の雫》に導か
れ、《月》にやって来たのである。


 国を建てるには自らの力だけでは不十分。

 (たぐい)まれなる《叡智(えいち)》の《月の雫》に不足し
ているもの、そして、その《月の雫》が一番
欲しているもの。


 それこそが《愛》と《勇気》と《仁徳》
であった。


 [(じゃ)]を(はら)い、[悪]を滅ぼす力を秘めている
《月の雫》を中心にその三つの《珠》なる
魂は、国を築いていく。

 やがて、この国を目指して集まって来る
存在は(あと)を絶たず、いつしか国は大帝国に
なっていく。


 三つの魂は、その《月の雫》を【月帝源】
と名付けた。

 そして、国は、≪月界帝国≫として繁栄
していくのである。


 帝国の皇帝は、代々【月帝源】によって
選ばれた。


 初代皇帝は、その三つの魂のうち、
《愛》を秘めていた存在。


 『極月光天』の祖先であった。


 以来、『極月光天』に至るまで、代々一族
によって皇帝の位は引き継がれていく。


 いや、引き継がれるというよりは、
【月帝源】が選ぶ皇帝が、代々『極月光天』
の祖先であったことからも、その一族が
いかに素晴らしい存在であったかがよく
わかるであろう。


 かつて地球で人間として生き、人々の幸せ
を願っていた『極月光天』の祖先、初代
≪月界帝国≫皇帝は、帝国の使者を人間と
して転生させて地球に派遣し、地上の人々の
幸せのために尽力するよう命じたのである。

 そして、その祖先の強く純粋な地球の人々
を愛する想いは、歴代皇帝にしっかりと受け
継がれてきた。

 代々帝国の皇帝自らが、誰の目にもさらさ
ず厳重に保管し、管理しておかねばならない
秘宝中の秘宝【月帝源】。

 国そのものと言っても過言ではない国の
神髄。

 帝国に危機が迫っている時は、その黄金色(こがねいろ)
の光が点滅し、危機を知らせてくれた。

 この【月帝源】のおかげで、帝国は度重(たびかさ)
る重大な事態を事前に回避することができた
のである。

 
ところが、その【月帝源】が先々代の皇帝の
時代に、なんと何者かの手によって盗まれて
しまったのであった。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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