『さえずり』の悲しき人生

文字数 729文字

 力尽き、横たわったまま動かなくなった
(かた)へなる者。

 『せせらぎ』は、『さえずり』の幼馴染(おさななじ)
であった。


 ≪月界帝国≫皇帝の娘として生を受けた
『さえずり』。


 その瞬間に、その人生は、すでに決められ
ていたのである。


 選択肢は二つ。


 皇帝の決めた相手と結婚し、帝国の安泰と
繁栄に寄与するか、人間として転生し、人々
の幸せを願うか。


 『さえずり』は、迷わず後者を選んだ。


 自らの意に沿わない結婚など絶対にしたく
はなかったからであった。


 皇帝の元に嫁いだ皇后、『さえずり』の母、
(うら)ら』は、そんな『さえずり』の想いを理解
してくれた。


 いつまでも変わらぬ悪しき慣習。


 相思相愛なれど叶わぬ願い。


 いったい(あと)どれほどの時が経てば、この帝国
に新しい風が吹くのか。


 帝国に存在する全ての者が、皇帝に絶対
服従であった。


 勇気よりも同調を重んじ、改革・革新を叫
び、前へ突き進む者はいなかった。


 「行きたいのでしょう。

 『せせらぎ』の元へ。

 お行きなさい。

 あなたは、『せせらぎ』と一緒にいる時が

一番幸せそうでした。

 この母にはわかります。

 もはや共に生きるためには、地球へ(おもむ)

以外にありません。

 祖国と縁を切ることになっても、それは

あなたが決断したこと。

 私は、あなたの決断を尊重します。



 これは私が嫁ぐ前、母より譲り受けた

()が一族の宝。」


 「おばあさまから?」


 「そうです。」


 『さえずり』は、母方の祖母が大好きで
あった。


 『さえずり』を、ことの(ほか)可愛がってくれた
のである。


 「この宝が、あなたをずっと(まも)ってくれるで

しょう。

 ただし、これは宝であると同時に、帝国と

の絶縁を招きかねぬもの。

 それでもそれがあなたの想いならば。。。

 その時、この宝がきっと願いを叶えてくれる

でしょう。」

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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