『極月光天』の真意

文字数 1,251文字

 導光には、『極月光天』が、どうしても
冷酷無慈悲な皇帝には思えなかったので
あった。

 『極月光天』が姿を現した時。

 導光には、『さえずり』である輝羽に対する
『極月光天』の《慈愛の念》がなぜか伝わっ
てきたのだ。

 同じ父として何か通じるものがあったの
であろうか。

 輝羽と向き合って、じっと輝羽を見つめて
いた、あの『極月光天』の表情。

 誰一人として見抜くことができない
『極月光天』の真意が、あの表情には確かに
表れていた。


 (この(かた)は、何かを隠している。

 誰にも悟られぬように本心を胸の奥に

ずっと秘め、あえて冷酷な皇帝を演じて

いるに違いない。


 私にはわかる。


 何よりこの【龍の眼光】が、私にそう

訴えている。

 輝羽に対する想いは、私以上。

 父としての《愛》。

 それも並々ならぬ深い《愛》に満ちて

いる。 


 なぜだっ? 


 いったいどんな理由(わけ)があるという

のだ。。。)



その時。


 導光に、ある人物からの思念が届いた。


 (導光殿。

 同じ『さえずり』の父として、貴殿(きでん)に頼みが

ある。

 どうか、この余を信じて、余に従って

ほしい。。。)


 (その声は。。。 皇帝陛下ですね?)


 (いかにも。。。)


 (どうすればよろしいですか?)


 (余が手に持つ剣を振り上げ、皇子に

向かってその剣を振り下ろす瞬間。

 皇子と『さえずり』、そして『麗ら』を

この陣から外へ連れ出してほしい。。。)


 ((おお)せの通りに。)


 (合言葉は。。。

 「「皇子よ。

 (うら)むなら父ではなく母を怨めっ。

 さらばだっ。」」


 余がこう言ったら『さえずり』たちを

陣から外へ出してほしい。)


 (承知いたしました。)



 「『澄子』、とにかく時間がない。

 理由(わけ)は、(あと)で話す。

 私が合図したら陣に駆け寄り、そこから

輝羽と『麗ら』さまを外へ連れ出し、

ここまで連れて来てほしい。」


 「えっ? どういうことっ?」


 「とにかくやってっ。」

 導光は、隣りにいた『澄子』の目を真っすぐ
に見つめ、真剣な表情で叫んだ。


「あっ、はい。 わかりました。」


 突然、突拍子もないことを言いだす導光に
戸惑いながらも、何か理由(わけ)があるのだろうと
悟った『澄子』は、あえてそれ以上導光には
何も尋ねなかった。




 その時。。。


 導光は、一瞬、夜空から二つの光が舞い
降りてくるのを視た。


 導光と妻の『澄子』は、陣の方へ近づいて
行った。


 すると、その二つの光は、導光の屋敷に
向かって物凄いスピードで真っすぐに飛んで
きたのであった。

 ほどなく二つの光は、倉の()り屋根の上に
降り立ったのである。


 『極月光天』は、それを見届けると、

 「皇子よ。 

 (うら)むなら父ではなく母を怨めっ。

 さらばだっ。」

 そう言って自らが持つ剣を振り上げた。


 「今だっ。 『澄子』っ。

 早く輝羽と『麗ら』さまを。。。」


 「わかったわ。」


 『澄子』は、戸惑う二人の手を取り、
素早く二人を陣から外へ連れ出した。


 「『こもれび』っ。『こもれび』っ。」

 『麗ら』の泣き叫ぶ声。


 導光は、一瞬の(すき)をつき、縄で縛られて
いる『こもれび』を抱きかかえるように
陣から外へ連れ出した。



その瞬間。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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