ふたつの【深紅愛縁糸】

文字数 1,233文字

 『セイソウ』の その言葉を聞いた時、
輝羽は ハッとした。

 そして、ふと左手の小指を見た。

 なぜか 左手の小指に 違和感を覚えたので
ある。

 しばらくじっと見つめていると。。。

 輝羽の左手の小指の先から、美しい深紅(しんく)
糸が二本、その姿を現し始めたのであった。

 二本のその糸は、スルスルと伸び始め、
まるでワルツの曲に合わせて踊るかのように
ゆっくり、ゆっくりと優しく輝羽を包み込ん
でいった。


 すると。。。

 二本の糸は、今度は次第に向かい合い、共
に空に向かって舞い始めたのである。

 あたかも それは、競演しているようにも
見える。

 しかし、互いに反発するでもなく、拒否
するでもなく、(から)み合うこともなく。。。

 それは、むしろ互いを尊重し合い、息を
合わせるかのように リズムよく舞っていた。


 一つ目の深紅(しんく)の糸。

 それは。。。

 すぐ隣に並び立つ『せせらぎ』の左手の
小指としっかりと結ばれていた。

 実は、この深紅(しんく)の【縁糸(えんし)】は 切れてはいな
かったのである。

 《半神(はんしん)》になると誓った時。

 深紅の愛の糸が 切れることを覚悟していた
『せせらぎ』。

 いや、当の昔に切れているものだと思って
いたのだ。

だが、その愛の糸は けっして切れてはいな
かった。


 あの『縁輪』でさえも まったく予想だに
しなかった、絶対に起こるはずがないという
奇跡を『せせらぎ』は起こしたのである。


 《半神(はんしん)》として 『さえずり』の隣りでいつま
でも『さえずり』を(まも)り抜く決意の現れ、
久遠(くおん)共魂(きょうこん)》の銀の【縁糸(えんし)】。

そして。。。

 心から愛する『さえずり』を 自らの愛で
包み、(いつく)しむ想いの現れ、《愛縁(あいえん)》の深紅(しんく)
【縁糸】。


 『せせらぎ』と『さえずり』は、この二つの
【縁糸】で 確かに結ばれていたのである。

 それほどまでに互いの絆は深く、強いもの
なのであろう。



 二つ目の深紅(しんく)の糸。

 この糸と結ばれている『さえずり』と縁ある
もう一人の相手こそ『赤心』王子であった。

 その糸は、輝羽の左手の薬指にふわりと巻
き付いていった。

 左手の薬指の付け根に、まるで指輪の
ように自然に、だが しっかりと 自らリングの
シルエットを描いていく。


 『赤心』王子が起こした もう一つの奇跡。

 それは、『さえずり』を心から大切に想う
その純粋な愛の力が、ついに『さえずり』
である輝羽の左手の小指から深紅の糸を創り
出したのである。


 限りある人間の命の(はかな)さと悲しさを
経験し、人間としてではなく 《半神(はんしん)》と
して『さえずり』の幸せを願い、永遠に
『さえずり』の隣りに存在する道を選んだ
『せせらぎ』。


 例え命に限りあろうと、その生涯 全身全霊
を懸けて『さえずり』を幸せにしたいと強く、
強く願い、人間に転生する道を選んだ
『赤心』王子。


どちらの《愛》の糸も、(まぎ)れもなく
『さえずり』への真実の《愛》。


すでに 我々が想像する《愛》というものを
超えた。。。


 それは、まさに【超愛(ちょうあい)】。



 あなたなら どちらの《愛》を 選ぶの
だろうか? 


 『さえずり』は? 


 いや、輝羽の答えは?

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

昇龍 澄子《しょうりゅう すみこ》


導光の妻。四十七歳。 

元客室乗務員。導光とは、機内で知り合った。

現在は、息子の縁成とともにイギリスに滞在中。

かつて偉大な巫女であったという前世を持つ。

導光同様、非常に高い霊能力と癒やしの力で多くの人々を内面から支え、癒やしながら心を修復し、

本来の自分を取り戻せるよう救える人物。

桜と龍に縁がある。

性格は、かなり天然で、かなりズレている。

どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、家族との会話がかみ合わない面がある。 

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