第25話 河合
文字数 1,053文字
やがて授業開始のチャイムが鳴り、朽木先生が入って来た。満足そうにみんなの机の上を見回してから、また余計な一言を言った。
「葉菜さんが配ってくださったようですね。今日みなさんにやっていただく問題集ですよ」
ああ、もう……。葉菜はうつむく。
放課後、帰り支度をしていると、結城がそっと近づいて来て言った。
「個人的に用事を言いつけられるなんて、三丘さん、本当に朽木先生に気に入られているのね」
「そんな。本当に、たまたま廊下で会っただけです」
「でも、あれは相当まずわね。河合さんは、なんでも自分が一番じゃなくちゃ気が済まない人なのよ。
あなたに直接疑問をぶつけるなんて、よっぽどプライドが傷ついたんじゃないかしら」
「そんな……」
「本当に気をつけたほうがいいわよ。あっ、私がこんなこと言ったなんて、誰にも言っちゃ駄目よ。
私はあなたのためを思って言っているんだから」
結城は、そう言って、ちょっと考えるような顔をしてから付け加える。
「それと、クラスの平穏のためにね。じゃあ」
そして、言うだけ言うと、足早に教室を出て行った。
ため息をつき、とぼとぼと廊下に出ると、待っていた郁美が、笑顔で手を振りながら言った。
「葉菜ちゃん、帰ろう」
玄関に向かいながら、郁美が言った。
「さっきの朽木先生のお願い事ってなんだったの?」
「授業で使うプリントを配っておいてほしいって」
郁美は無邪気に言う。
「へえ、うちのクラスでも、明日の授業で配られるかなあ。なんのプリント?」
「漢字とことわざの問題集」
「そうなんだ」
葉菜は、思い切って聞いてみた。
「うちのクラスの河合さんって知ってる?」
「ああ、あの冷たい感じの美人。知ってるよ。なんか、地元のいいうちのお嬢さんなんでしょう?」
「有名なの?」
「有名かどうかはわからないけど、クラスに、同じ中学だった子がいるから」
「ふうん」
「あの人が、どうかした?」
「あの人、朽木先生がお気に入りなんだって」
郁美が笑う。
「まあ、ここには若い男性は朽木先生くらいしかいなから、人気はあるよね。みんな色気づくお年頃だから」
まるで自分は違うみたいな言い方だ。
「郁美ちゃんは?」
「えっ、朽木先生を異性として好きかってこと?」
「うん」
郁美は、鼻で笑う。
「若いって言っても三十代だよ。私はカイトくんみたいな人がいい」
そう言って、彼女は人気アイドルの名前を挙げた。
「そう言う葉菜ちゃんこそ、朽木先生が好きなの?」
葉菜は、思わずしかめっ面になって、首を横に振った。
「全然」
「葉菜さんが配ってくださったようですね。今日みなさんにやっていただく問題集ですよ」
ああ、もう……。葉菜はうつむく。
放課後、帰り支度をしていると、結城がそっと近づいて来て言った。
「個人的に用事を言いつけられるなんて、三丘さん、本当に朽木先生に気に入られているのね」
「そんな。本当に、たまたま廊下で会っただけです」
「でも、あれは相当まずわね。河合さんは、なんでも自分が一番じゃなくちゃ気が済まない人なのよ。
あなたに直接疑問をぶつけるなんて、よっぽどプライドが傷ついたんじゃないかしら」
「そんな……」
「本当に気をつけたほうがいいわよ。あっ、私がこんなこと言ったなんて、誰にも言っちゃ駄目よ。
私はあなたのためを思って言っているんだから」
結城は、そう言って、ちょっと考えるような顔をしてから付け加える。
「それと、クラスの平穏のためにね。じゃあ」
そして、言うだけ言うと、足早に教室を出て行った。
ため息をつき、とぼとぼと廊下に出ると、待っていた郁美が、笑顔で手を振りながら言った。
「葉菜ちゃん、帰ろう」
玄関に向かいながら、郁美が言った。
「さっきの朽木先生のお願い事ってなんだったの?」
「授業で使うプリントを配っておいてほしいって」
郁美は無邪気に言う。
「へえ、うちのクラスでも、明日の授業で配られるかなあ。なんのプリント?」
「漢字とことわざの問題集」
「そうなんだ」
葉菜は、思い切って聞いてみた。
「うちのクラスの河合さんって知ってる?」
「ああ、あの冷たい感じの美人。知ってるよ。なんか、地元のいいうちのお嬢さんなんでしょう?」
「有名なの?」
「有名かどうかはわからないけど、クラスに、同じ中学だった子がいるから」
「ふうん」
「あの人が、どうかした?」
「あの人、朽木先生がお気に入りなんだって」
郁美が笑う。
「まあ、ここには若い男性は朽木先生くらいしかいなから、人気はあるよね。みんな色気づくお年頃だから」
まるで自分は違うみたいな言い方だ。
「郁美ちゃんは?」
「えっ、朽木先生を異性として好きかってこと?」
「うん」
郁美は、鼻で笑う。
「若いって言っても三十代だよ。私はカイトくんみたいな人がいい」
そう言って、彼女は人気アイドルの名前を挙げた。
「そう言う葉菜ちゃんこそ、朽木先生が好きなの?」
葉菜は、思わずしかめっ面になって、首を横に振った。
「全然」