第82話 幸せ

文字数 1,115文字

 そのまま五人でおしゃべりをして盛り上がり、気がつくと、消灯時間が近くなっていた。あわててみんなでシャワールームに向かう。
 
 
 一旦、自分の部屋に戻って、着替えを持って来た郁美が、葉菜に向かって言った。
 
「瑞希がいなくなったから、蓮沼さん、一人になっちゃって寂しかったって」

 蓮沼というのは、郁美と同室の二年生だ。瑞希も、自主退学したのだ。
 
「じゃあ、郁美ちゃんが戻って来て喜んでいるね」

 郁美が、ふふっと笑う。

「そうだといいけど。

 あっ、それで、蓮沼さんは、もうシャワーを浴びたっていうから、葉菜ちゃん、私の次に入っちゃえばいいよ。なんなら私の前でもいいし」

「じゃあ、郁美ちゃんの次に浴びさせてもらうね」

「うん」

 郁美が、にっこり笑った。
 
 
 
 その夜、ベッドの中で、葉菜は、ここに来てからのことを思い返した。
 
 初めは、転校もさることながら、寮に入ることが嫌で嫌でたまらなかった。もともと友達はいなかったし、ほしいとも思っていなかった。
 
 姉さえいれば、それでよかったのだ。それなのに、大好きな姉と離れ、しかも四人部屋で暮らさなければならないなんて、心の底から絶望した。
 
 赤の他人と生活をともにするなんて、絶対にうまく行くはずがないし、ストレスしかないだろうと思っていたのだ。
 
 
 だが、実際に来てみると、年上のルームメイトたちは、みんな親切で優しかったし、仲良くしてくれる友達まで出来た。
 
 学校ではいろいろ嫌なことがあったし、そのことで、寮の人たちにも迷惑をかけてしまったけれど、ルームメイトたちは、どんなときも葉菜を信じてくれ、今も温かく接してくれている。
 
 一度は寮を去った郁美も、今日、戻って来てくれた。それに、偶然出会い、孤独だった葉菜に優しくしてくれ、今では姉とも親しくなった佑紀乃。
 
 泣きながら、姉とともにタクシーでやって来た日には、まさかこんな未来が待っているとは思いもしなかった。まさか、こんなにたくさん大切な人が出来るとは。
 
 こういうのを、多分幸せと言うのだ。そう思いながら、いつの間にか、葉菜は眠りについた。
 
 
 
 1ヶ月後の週末、朝食を終え、身支度を整えた葉菜は、みんなと一緒にバス停へと向かう。見海、瑠衣、郁美は実家へ、淳奈は恋人の部屋に行くという。
 
 淳奈は、アルバイトがバレて以来、彼の部屋でモデルをすることになったのだそうだ。それについて、淳奈は言った。
 
「結局やっていることは変わらないし、バイト代ももらっちゃってるけどね」

「部屋で二人きりでなんて、なんだかイヤラシイわね」

 そう言う瑠衣の言葉に、淳奈はあっけらかんと言った。
 
「ま、恋人同士だからね、それなりにやることはやってるよ」
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