第68話 寮を出てからのこと

文字数 936文字

 部屋の中は、葉菜と淳奈のベッドが新しいものに取り替えられているだけで、それ以外のものは今まで通りだ。見海が言った。
 
「被害はベッドだけで、ほかのものは全部大丈夫だったのよ。机もロッカーも」

 淳奈も言う。
 
「私も、ベッドには何も置いていなかったから、新しいベッドにしてもらって、かえってラッキーだったくらい」

「それならよかった……」

 葉菜が火を点けたわけではないけれど、葉菜を標的にした行為ではあるわけで、そのために、みんなの持ち物が燃えたり水浸しになったりしなくて本当に良かった。
 
「しばらくの間、ちょっと焦げ臭かったけど、窓を開けていたら臭わなくなったね」

「消臭芳香剤もたくさんスプレーしたしね」

「でも、葉菜ちゃんのスマホは壊れちゃったんだっけ」

「はい。でも、また買ってもらいます」

「そりゃそうだよね。またアプリ入れ直したりするの、ちょっとめんどくさいけどね」

 そこで、瑠衣が言った。
 
「ねえ、座らない?」

 それまで、ベッドの前で、みんな立ったまま話していたのだった。それぞれの机の前から、椅子を部屋の中央に持って来て、腰かける。
 
 
「これ食べない?」

 淳奈がキャンディーの入った袋を回す。葉菜も、一つ取って隣に回す。袋を受け取りながら、瑠衣が言った。
 
「昨日は大変だったんだよ」

 そして、葉菜が寮を出てからのことを、見海が中心になって、葉菜に話して聞かせてくれた。
 
 
 
 葉菜がいないことに、最初に気づいたのは見海だった。瑠衣と淳奈に、メッセージアプリで小火があったことを知らせ、瑠衣からは、すぐに返信が来たので、何度かやり取りをした後だった。
 
 トイレに行って来ると言っていたが、ずいぶん時間が経っている。もしかしたら、お腹をこわしていたりするのだろうか。
 
 榎戸には、ここで待つように言われたが、様子を見に行ってみようか。そう思っていたところに榎戸が戻って来た。
 
「学校に連絡したら、これから教頭先生がいらっしゃることになったわ。寮生一人一人に話を聞きたいって。

 あら、三丘さんは?」
 
「トイレに行ったきり、まだ戻って来ないんです。今、ちょっと見て来ようかと思っていたところです」

「そうなの。それじゃ、一緒にトイレに寄って、三丘さんも連れて談話室に行きましょう」
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