第20話 森

文字数 909文字

 少し迷ったものの、まだ時間は早いし、道路の先がどうなっているか気になったので、行けるところまで行ってみることにした。

 しばらく歩くと、すぐに森が深くなり、そのせいでいくらか薄暗いが、きちんと舗装された車も通れそうな道路なので、あまり不安は感じない。この先には人家があるか、あるいは、どこかに通り抜けられるのかもしれない。
 
 森の空気はすがすがしく、心なしか爽やかな香りもする。これは葉っぱが発する香りだろうか……。
 
 
 気分よく歩いていたのだが、ついに舗装が途切れた。その先は、土の道になっている。
 
 ふと気がつけば、ずいぶん高いところまで来ているようだ。これ以上進んでも、どんどん森の奥に入って行くだけで、やがて山を登ることになるのではないだろうか。
 
 さすがに山登りをする気はない。葉菜が着ているのはコットンのワンピースで、足元は華奢なフラットシューズだ。
 
 ここまで来ただけでも、けっこう面白かった。そろそろ来た道を戻ろう。
 
 そう思って踵を返そうとしたとき、道の先の木陰で、何かが動いた気がした。今の、何? なぜだか、とても気になる。
 
 
 頭の隅で、危険信号が鳴っている。確かめようなどと思ってはいけない。今すぐ早足で来た道を戻るのだ。
 
 姉にいつも言われている。葉菜はいつも、得体の知れないものにふらふらと近づいて行くけれど、危ないから絶対に駄目よ、と。
 
 それはわかっている。だけど、今から寮に帰っても、まだ夕ご飯までには時間があるし、見海だって帰っていないだろう。
 
 多分、何もないだろうけれど、もしかしたらウサギか、それはないとしても猫かもしれない。小さい頃に飼っていた三毛猫のミミちゃんは、とてもかわいかったっけ。
 
 せっかくここまで来たのだから、もう少しだけ奥まで行っても……。結局、葉菜は土の道に足を踏み入れた。
 
 
 だが、さっき何かが動いたように見えたところまで行ってみたものの、特に何もなかった。地面に生えている草が風に揺れただけかもしれない。
 
 やっぱりね。そんなことだろうとは思ったけれど。
 
 ちょっとがっかりしながら、来た道を戻ろうとしそのとき、今度は本当に、はっきりとそれが見えた。
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