第51話 火元

文字数 909文字

「火元になったのは、タバコの吸い殻でした。タバコが入った箱とライターもありました」

「えっ……」

 絶句していると、見海が言った。
 
「それは変です。部屋にタバコなんかないはずです。誰もタバコなんて吸わないし、持っているはずがありません」

 だが、新国は落ち着いた声で言う。
 
「私は事実をお伝えしています」

「でも、おかしいわ。誰かがこっそりタバコを吸っていたとしたら、臭いでわかるはずです」

「あるいは、みんなで吸っていた、とか」

 新国の言葉に、見海が声を荒げた。
 
「ひどいわ! 消防士だからって、そんな、人を侮辱するようなことを言ってもいいんですか?」

 だが、新国はあくまで冷静だ。
 
「可能性の一つとして言ったまでです」


 そこで、榎戸が割って入った。
 
「私も城山さんと同意見です。彼女が言ったように、もしもタバコを吸っていたとしたら、私も臭いで気づくと思います。

 彼女たちと接したり、部屋に入ったこともありますが、そんな気配は微塵もありませんでしたよ」
 
「確かに、不自然な点はあります。タバコはあるのに、どこにも灰皿がなかった」

「やっぱり」

 つぶやいた見海に、すかさず新国が問いかける。
 
「何か気づいたことでも?」

 見海は、ちらりと葉菜を見てから、新国に向かって言った。
 
「葉菜ちゃん、あっ、三丘さん、学校で、とても悪質な嫌がらせをされているんです。もしかしたら、このことも……」

 榎戸が、不審げな顔をする。新国が言った。

「なるほど、わかりました。私たちは事実関係を検証したまでで、警察ではありませんので、これ以降のことは、みなさんで検討してください」



 消防士たちは帰って行った。彼らを送り出した後、食堂に戻って来た榎戸が言った。
 
「ほかの部屋のみなさんには、談話室で待機してもらっています。とにかく、まずは部屋に行ってみましょう」



 部屋には異臭が立ち込めていた。消火器で火を消した後、水をかけたという部屋の中は、葉菜のベッドを中心に、ひどい状態になっている。
 
 貴重品は鍵付きのロッカーにしまうように言われていたのに、いつも枕元に置いたままにしていたスマートフォンは、液晶画面が焦げて黒くなり、使える状態でないのは明らかだ。
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