第47話 変な噂

文字数 940文字

 その日の夕方には、淳奈は榎戸に挨拶をして、寮を後にした。一緒に過ごす時間は少なかったけれど、明るく屈託のない淳奈がいなくなるのは、やはり寂しい。
 
 早く一週間が過ぎて、また戻って来てほしいと思う。それにしても、淳奈がアルバイトをしているのは、もうずいぶん前からだったらしいのに、どうして今になってこういうことになったのだろう。
 
 
 
 その後の数日は、何も起こらないまま過ぎて行った。もう何も起こらないのか、あるいは忘れた頃に、また何かされるのか、とても不気味だ。
 
 
 週の半ばを過ぎた頃、放課後、寮に戻り、部屋に入って行くと、頭を突き合わせて何やらしゃべっていた見海と瑠衣が、はっとしたようにこちらを見た。
 
「……ただいま」

「あっ、おかえり」

「おかえり葉菜ちゃん」

 なんとなく様子がおかしい。
 
「どうかしましたか?」

 二人は気まずそうに顔を見合わせる。そして、初めに口を開いたのは瑠衣だ。
 
「いや、まあ、たいしたことじゃないんだけどね」

「はい……」

「学校で、変な噂が立っているみたいで」

 見海が言う。
 
「私たちは、全然気にしていないんだけどね」

 なんとなく、噂の内容の予想がついた。
 
「もしかして、私に関係することですか?」

「まあ、なんていうか……」

「私なら大丈夫ですから、言ってください」

 葉菜は笑って見せる。もう今さら、少々のことでは驚かないつもりだ。
 
 すると、瑠衣が意を決したように言った。
 
「じゃあ言うけど、郁美ちゃんが家から戻って来なかったり、淳奈が謹慎処分になったのを見て、葉菜ちゃんと関わった人に災いが起こる、みたいなことを言っている人たちがいるみたいで……。

 まったく、都市伝説じゃあるまいし」

 なるほど、そういうことかと思う。見海が、あわてたように言った。
 
「私たち、ホントに全然気にしてないから。そもそも葉菜ちゃんが何かしたわけじゃないんだし」


 だが、噂はあながち嘘でもないと葉菜は思う。葉菜が何かをしたわけではないのはもちろんだが、葉菜と関わったせいで、郁美が嫌がらせをされて、体調を崩したことには違いない。
 
 淳奈のことも、あるいは葉菜と同室だということが関係していないとも限らない。ということは、もしや見海と瑠衣にも、これから何かが起こるのだろうか。
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