第91話 ゲーム

文字数 993文字

 あのときの記憶がない葉菜に、佑紀乃が話してくれた。河合は、自分のしたことに驚いた様子で、止血のためにハンカチを差し出してくれたと言っていたはずだが……。
 
 河合は、ナイフの刃をゆらゆらと動かし、それを眺めながら話す。
 
「ママは体が弱くて、子供は一人しか産めないって医者に言われたんですって。だから、パパもママも、私のことをすごくかわいがってくれたのよ。

 ほしいものは何でも買ってくれたし、お金だって使いきれないくらいたくさんくれた。だってパパは、いくつもの会社を経営している社長で、大金持ちだから。
 
 周りの人も、みんな私のことをちやほやしてくれたわ。お金をあげれば、なんだってやってくれるし。
 
 お金はいくらでもパパがくれるし、お金さえあれば、なんでも思い通りになると思っていた。だけど……」
 
 
 河合の顔から、表情が消える。
 
「みんなが私をちやほやするのはお金が目当てで、本当は誰一人、私のことなんか好きじゃないのよ。だから、それを逆手に取ったの。

 お金を恵んでやる代わりに、汚い仕事をさせて、あいつらの手を汚してやることにした。そうやって、後戻り出来ないようにしておいて、あいつらを使って、気に食わないやつは、全部叩き潰してやることにしたの」
 
「どうしてそんな……」

 思わずつぶやくと、河合がにやりと笑った。それを見た瞬間、鳥肌が立つ。
 
「ゲームよ。そういうゲーム。あんただって、ただのゲームの駒に過ぎないのよ。

 何しろ、パパは大金持ちだし、私のことを溺愛しているから、少々やり過ぎたってお金を使ってもみ消してくれるわ」
 
 今度は彼女は、葉菜をにらみつける。
 
「あんたみたいなやつ、大っ嫌い。本当はしたたかなくせに、か弱いふりをして、被害者面して、みんなにちやほやされていい気になって。

 絶対に潰してやろうと思った。今までさんざん大金をばらまいて来たおかげで、私には、お金のためなら、どんな汚いことでも喜んでする手下がたくさんいるんだもの。
 
 あんた一人追い払うくらい、どうってことないと思っていたわ。だけど、あんたは意外にしぶとくて、ずいぶん手こずらされた。
 
 でも、そのおかげで、やっぱり私の読みが正しかったってわかったのよ。猫を被っているだけで、本当のあんたは図太くてずうずうしいんだってね。
 
 それで、少々手荒な手段を使うことにしたってわけ。あんたを確実に潰すためにね」
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