第28話 暗証番号

文字数 1,051文字

 先生の指示に従い、先生と葉菜と、物が失くなったという数人と、立会人として、クラス委員の結城が、ぞろぞろと廊下にあるロッカーに向かう。
 
 放課後とあって、よそのクラスでは、すでにホームルームが終わっているようだ。廊下には人があふれ、葉菜を待っているらしい郁美も、不思議そうに葉菜たちを見ている。
 
「暗証番号を打ち込む間、私たちは背を向けていますから、三丘さん、鍵が開いたら声をかけてください」

「はい」

 みんなが一斉に、並んでいるロッカーに背を向ける。4桁の数字を打ち込み、ロッカーに掛かっている鍵を解除する。
 
 葉菜は思う。見られたって一向にかまわない。だって、私は人の物を隠してなんかいないんだから。
 
「解除しました」

 葉菜が言うと、みんながロッカーに向き直る。先生が、緊張の面持ちで言った。
 
「それでは三丘さん、ロッカーのドアを開けてください」

「はい」

 葉菜は、ゆっくりとロッカーのドアを開ける。
 
 
「あっ、私のお財布!」

 真っ先に声を上げたのは大河原だ。信じられないことに、葉菜の教科書とノートを立てかけた横に、ピンク色の財布が置かれている。
 
 それだけでなく、下の段には、見慣れないノートとタオルと、文庫本もあるではないか。
 
「そんな!」

 葉菜は、ほとんど悲鳴に近い声を上げた。そんなはずはない。なんだってこんなものが。
 
 4時間目が終わったときには、こんなものは一つもなかったのに!
 
「三丘さん、あなたしか暗証番号を知らないのよね」

 そう言ったのは門田だ。
 
 そのとき、不意に思い出した。ロッカーを開け閉めするときに、何度か門田が近くにいた。
 
 彼女も自分のロッカーで何か出し入れしていたり、一度などは、気配を感じて横を見ると、すぐそばに彼女がいて、にっこり笑いかけて来たのだ。
 
 あれは、葉菜が暗証番号を打ち込むのを盗み見ていたのではないのか?
 
「違う! 私じゃない!」

 葉菜の目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
 
 
 最後尾から教室に入ると、みんなの視線が葉菜に注がれる。大河原が、財布を掲げて言った。
 
「あったの」

 門田も言う。
 
「私のノートもあった」

 河合が、呆れたように言った。
 
「どうやら謝る必要はなさそうね」

「違う! 私じゃない……」

 葉菜は泣きながら、必死に反論するが、みんな冷たい目でこちらを見るだけだ。先生が言った。
 
「三丘さんとは私が話をします。三丘さんなりの言い分もあるでしょうから、みなさんは、くれぐれも憶測でものを言わないようにしてくださいね」
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