第49話 消防車

文字数 943文字

 お茶を飲みながら、葉菜は今週起こったことを佑紀乃に話した。郁美が家で静養することになり、メッセージを送っても返事がないことや、淳奈が謹慎処分になってしまったことなどを。
 
 
「お友達のこと、心配ね。葉菜ちゃんも辛かったわね」

 佑紀乃の言葉に、鼻の奥がツンとする。
 
「見海さんや瑠衣さんにも何かあったらどうしようかと思って……」

 つい弱音を吐いた葉菜に、佑紀乃が微笑みかける。
 
「でも、ルームメイトの方たち、みんなとてもいい方ね」

「はい、とても心強いです」

 だからこそ、これ以上迷惑をかけたくないのだ。
 
 
 今日もおいしいお茶とお菓子をごちそうになって、話を聞いてもらって、ずいぶん気持ちが軽くなった。今や葉菜にとって、佑紀乃は、見海たちと同じくらい大切でかけがえのない存在だ。
 
 
 
「それじゃ、また遊びにいらしてね。よかったら、週末じゃなくても、いつでも葉菜ちゃんが来たいときに」

 帰り際、そう言って、佑紀乃は送り出してくれた。名残り惜しい気持ちを抑えて、葉菜は洋館を後にした。
 
 
 
 別荘地の間を通る道路を、寮に向かって歩いていると、遠くからサイレンの音が聞こえて来た。あれは消防車だろうか。
 
 さらに歩いて行くと、広い通りを消防車が走って行くのが見えた。向かっているのは、寮の方向だ。
 
 まさかとは思いながら、不安になって、葉菜は足を速める。やがてコンビニのある通りに出ると、消防車が寮の入口へと続く道路を上って行くのが見えた。
 
 まさか……。いつしか葉菜は、寮に向かって駆け出していた。
 
 
 
 寮の敷地内に消防車が停まっていて、消防士の姿も見える。寮に残っていたらしい寮生たちも、外から寮を見上げているが、どこにも火や煙は見えない。
 
 立ち尽くしたまま呆然と見回していると、後ろから声をかけられた。
 
「葉菜ちゃん」

 振り向くと、今戻って来たところらしい見海だ。
 
「これ、どういうこと? 何があったの?」

「私も、今帰って来たばっかりで……」


 そこへ、榎戸が駆け寄って来た。
 
「あなたたち!」

 見海が尋ねる。
 
「何があったんですか?」

「あなたたちの部屋から小火が出たのよ」

「えっ!?

 二人は、顔を見合わせる。
 
「ちょっとこっちへ」

 榎戸は、二人を人気のない物置の陰へと連れて行った。
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