第10話 郁美

文字数 881文字

 淳奈は、思ったよりも早く、髪をタオルで包んだ格好で戻って来た。
 
「葉菜ちゃんお待たせ」

 葉菜は、着替えの入ったバッグを抱えてベッドから立ち上がる。瑠衣が言った。
 
「場所はわかる? 二階のあっちの突き当りね」

「はい」

「洗濯機があるから、なんならシャワーを浴びる間に洗濯してもいいし」

「あっ、はい」

 なんだかんだ言っても、瑠衣はとても親切だ。
 
 机に向かっていた見海が、ちらりと振り返って微笑んだ。淳奈は、洗い髪をごしごしとタオルで拭いている。
 
 
 
 恐る恐るシャワールームのドアを開けると、テーブルに座って雑誌を広げていた女の子が、顔を上げてこちらを見た。くせっ毛らしい耳の下までの濡れた髪が、顔の周りでうねっている。
 
「三丘さんだっけ」

「はい」

「私も一年生なの。柴内郁美よ」

「あっ、よろしくお願いします」

 葉菜がぺこりと頭を下げると、郁美がにっこり笑って言った。
 
「学校は明日から?」

「はい」

「同じクラスになれるといいね」

「はい」

「今、洗濯しているところなの。この時間、混んでいることが多いんだけど、今日はたまたま空いていたから」

 シャワールームの個室が並んでいるのとは反対側の壁際に、洗濯機が三台置かれていて、今は二台が稼働中だ。そういえば、姉は、葉菜が家事をしたことがないことを心配していたけれど、結局ここでは、洗濯は自分でするのだ。
 
 彼女は続ける。
 
「何しろ、女の子がたくさんいるからね。あっ、私の部屋は、すぐそこの205号室」

「私は……」

「淳奈さんたちのところだよね。303だっけ」

「そうです」

 葉菜の言葉に、郁美がふふっと笑った。
 
「タメ口でいいよ。一年生同士なんだから」

「あ……うん」

 一年生だろうが何年生だろうが、葉菜は今まで友達がいなかったので、人との接し方がよくわからない。もじもじしていると、郁美が言った。
 
「シャワー、浴びてきたら? 髪が長いから、洗うの大変そうだね」

「そんなこともないけど」

 小さい頃から、ずっと長くしているので慣れている。 
 
 話していると、個室から、シャワーを済ませた人が出て来た。それを期に、葉菜も個室に向かう。
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