第12話 二つ結び

文字数 876文字

「……葉菜ちゃん……葉菜ちゃん」

 名前を呼ばれて目を開けると、見下ろしている見海の顔があった。それで、清心寮にいることを思い出す。
 
「そろそろ朝ご飯の時間だから、起きて着替えて」

「あ……はい」

 葉菜は、むっくりと起き上がる。朝は苦手で、いつもは姉に起こしてもらっていたのだった。
 
 
 
 朝食の後は、みんな一旦、部屋に戻り、準備をして、すぐ隣の敷地に建っている学校に向かう。食堂で顔を合わせたときに、郁美が一緒に行こうと誘ってくれた。
 
 
 見海たちの後について階段を下りて行くと、玄関で待っていた郁美が、こちらに向かって手を振った。淳奈が、葉菜を見て微笑む。
 
「もうお友達になったの?」

「昨日、シャワールームで会って」

 友達というか、たまたま言葉を交わしただけだが。
 
「よかったね」


 近づいて行くと、郁美がみんなに向かって元気に挨拶をした。
 
「おはようございます」

「おはよう」

「おはよう」

 みんな口々に返す。そして郁美は、葉菜に近づいて言った。
 
「行こうか」

「うん」



 肩を並べて歩きながら、郁美はこちらを見て言った。
 
「二つ結び、かわいいね」

 校則に合わせ、長い髪を二つに分けて、それぞれ耳の後ろでまとめている。昨日、帰って来たときは髪を下ろしていた淳奈も、今朝は二本のおさげにしていた。

「あ……三つ編み、うまく出来なくて。前の学校は、下ろしたままでもよかったから」

 本当は、葉菜もおさげにしたかったのだが。

「へえ、そうなんだ。でも、かわいいよ」

「ありがとう。ええと、柴内さんの髪も、ふわふわしていてかわいいね」

 郁美が苦笑する。
 
「ホントはさらさらのストレートに憧れるけどね。それと、『郁美』でいいよ」

「郁美、ちゃん?」

 郁美が、楽しそうに笑う。
 
「じゃあ、私は葉菜ちゃんって呼ぶね」

「……うん」

 今まで、こういうやりとりをしたことがなかったので、なんだか照れくさいが、悪い気はしない。
 
 
 
 郁美に案内されて、職員室に向かう。まだ下足入れの場所が決まっていないので、片手に通学カバン、片手にローファーを提げて廊下を進む。
 
 なんだかドキドキして来た。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み