第38話 さらなる展開

文字数 915文字

 葉菜の言葉に、郁美は苦笑を浮かべながら言った。
 
「まあちゃんたちに言われちゃった。これからも葉菜ちゃんと仲良くするなら、私とは一緒にいられないって」

「そんな……」

 心配していたことが、早くも現実になってしまった。

「葉菜ちゃんのせいじゃないよ。みんな河合さんのことが怖いんだよ。

 まあちゃんは同じ中学だったから、昨日の話のほかにも、いろいろ知っているんじゃないかな。河合さんって、そうとうヤバい人なんだよ」
 
 自分は、心ならずも、そんな人を敵に回してしまったのかと思う。
 
「郁美ちゃん、ごめん」

 郁美が笑う。
 
「いいよお、気にしないで。葉菜ちゃんは大切な友達だもん。

 私、寮の中でこんなに気が合う人と仲良くなれて、すごくうれしいと思っているんだから」
 
「郁美ちゃん……」


 だが、事態はさらなる展開を迎える。
 
 
 
 翌日の放課後、教室から出て行くと、廊下で待っていた郁美が、葉菜の顔を見るなり泣き出した。
 
「どうしたの?」

 問いかける葉菜に、郁美は、顔を歪めて泣きながらつぶやいた。
 
「教科書が……」

「えっ?」

 ほかの生徒たちが、ちらちらと二人を見ながら通り過ぎて行く。
 
「郁美ちゃん、行こう」


 玄関を出て、寮に向かいながら、葉菜はもう一度、郁美に聞いた。
 
「郁美ちゃん、教科書がどうしたの?」

「それが……」

 郁美は、目元を拭いながら話し始めた。
 
「五時間目の授業は国語だったの」

「うん」

「確かに机の引き出しに入れてあったんだよ」

 もしかして。嫌な予感に襲われながら、葉菜は尋ねる。
 
「国語の教科書?」

「うん。それなのに、カフェテリアから戻って、授業の用意をしようと思って引き出しを開けたら失くなっていて……」

 ああ、やっぱり。
 
「探してみた?」

 だが、郁美は首を横に振る。
 
「ううん。だって、誰かが隠したに決まってるもん。

 その誰かがこっそり様子をうかがっているのかと思ったら、あちこち探し回るなんて出来なかった」
 
「……そうだよね」

 郁美の気持ちはよくわかるし、故意に隠されたならば、いくら探しても見つかるはずがないと思う。
 
「授業は大丈夫だった?」

「うん、なんとか。明日、購買部に買いに行かなくちゃ」

「そうだね、一緒に行こう」
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