第15話 忠告
文字数 1,081文字
結城は、横に並ぶと、前を見たまま歩きながら話しかけて来る。
「あなた、気を付けたほうがいいわ」
「え?」
「クラス委員として忠告しておくわ。表立っては言えないけど、うちのクラスは河合さんが牛耳っているの」
「河合さん?」
そう言われても、どれが誰なのか、まだ名前も顔もわからない。
「窓際の一番後ろの席の人よ。彼女の父親、地元の有力者で、学院にも多額の献金をしているとかで、彼女も女王のように君臨しているってわけ。
あの人に目をつけられると面倒なことになるわよ」
献金なら、姉の姑となる人もしていると聞いたけれど、目をつけられるとはどういうことだろう。そう思っていると、結城が言った。
「あなた、朽木先生に気に入られたみたいじゃない?」
「そんなことは……」
ただ単に、転校生だから話しかけられただけだと思うが。だが、結城はさらに言う。
「あなたはピンと来ないかもしれないけど、この学校には男性教師は数えるほどしかいないし、そのほとんどがおじさんなの。朽木先生、この学校では一番若くて、見た目もまあまあだし、生徒には人気があるのよ。
ご多分にもれず、河合さんもご執心なの。さっきのあれはまずかったわねえ」
「でも私は……」
「わかってるわ。あなたにはなんの落ち度もないけど、このクラスで穏便に過ごしたいと思ったら、河合さんの逆鱗に触れないように気をつけることね」
戸惑っているうちに、結城はくるりと踵を返し、小走りになって、去って行ってしまった。
カフェテリアの入り口に、郁美が立っていた。手を振って近づいて来ながら言う。
「来るのを待ってたんだよ。あっちにクラスの友達がいるから一緒に食べよう」
「あ……うん」
「どうかした?」
「ううん」
葉菜は首を横に振る。郁美が、葉菜の腕を取って行った。
「行こう。お腹空いちゃった」
郁美のクラスメイト三人を紹介されて、昼食は彼女たちと一緒に食べた。みんな葉菜に優しくしてくれた。
彼女たちと廊下で別れ、教室に戻った葉菜は、思わず河合を探す。結城に言われた、窓際の一番後ろの席に目をやると、ポニーテールの子が席に座り、周りにいる数人が、彼女におもねるように話しかけている。
おそらく、ポニーテールが河合だろう。きれいな子だけれど、つんと澄ましていて、いかにも気が強そうに見える。
もちろん、それは葉菜の主観でしかないが、地元の有力者の娘と聞いて、なるほどと思うような雰囲気をまとっている。
見つめていると、不意に彼女がこちらを向いて、目が合った。数秒、冷たい目で葉菜をじっと見つめた後、河合は、ゆっくりと前を向いた。
「あなた、気を付けたほうがいいわ」
「え?」
「クラス委員として忠告しておくわ。表立っては言えないけど、うちのクラスは河合さんが牛耳っているの」
「河合さん?」
そう言われても、どれが誰なのか、まだ名前も顔もわからない。
「窓際の一番後ろの席の人よ。彼女の父親、地元の有力者で、学院にも多額の献金をしているとかで、彼女も女王のように君臨しているってわけ。
あの人に目をつけられると面倒なことになるわよ」
献金なら、姉の姑となる人もしていると聞いたけれど、目をつけられるとはどういうことだろう。そう思っていると、結城が言った。
「あなた、朽木先生に気に入られたみたいじゃない?」
「そんなことは……」
ただ単に、転校生だから話しかけられただけだと思うが。だが、結城はさらに言う。
「あなたはピンと来ないかもしれないけど、この学校には男性教師は数えるほどしかいないし、そのほとんどがおじさんなの。朽木先生、この学校では一番若くて、見た目もまあまあだし、生徒には人気があるのよ。
ご多分にもれず、河合さんもご執心なの。さっきのあれはまずかったわねえ」
「でも私は……」
「わかってるわ。あなたにはなんの落ち度もないけど、このクラスで穏便に過ごしたいと思ったら、河合さんの逆鱗に触れないように気をつけることね」
戸惑っているうちに、結城はくるりと踵を返し、小走りになって、去って行ってしまった。
カフェテリアの入り口に、郁美が立っていた。手を振って近づいて来ながら言う。
「来るのを待ってたんだよ。あっちにクラスの友達がいるから一緒に食べよう」
「あ……うん」
「どうかした?」
「ううん」
葉菜は首を横に振る。郁美が、葉菜の腕を取って行った。
「行こう。お腹空いちゃった」
郁美のクラスメイト三人を紹介されて、昼食は彼女たちと一緒に食べた。みんな葉菜に優しくしてくれた。
彼女たちと廊下で別れ、教室に戻った葉菜は、思わず河合を探す。結城に言われた、窓際の一番後ろの席に目をやると、ポニーテールの子が席に座り、周りにいる数人が、彼女におもねるように話しかけている。
おそらく、ポニーテールが河合だろう。きれいな子だけれど、つんと澄ましていて、いかにも気が強そうに見える。
もちろん、それは葉菜の主観でしかないが、地元の有力者の娘と聞いて、なるほどと思うような雰囲気をまとっている。
見つめていると、不意に彼女がこちらを向いて、目が合った。数秒、冷たい目で葉菜をじっと見つめた後、河合は、ゆっくりと前を向いた。