第76話 話

文字数 1,063文字

 注文の品がそろい、ウェイトレスが去ったところで、姉が言った。
 
「昨日、佑紀乃さんといろいろお話ししたのよ。それで、食べながらでいいから、聞いてちょうだい」

「わかった。いただきまーす」

 葉菜は、フォークを手に取る。ミートボールが入ったたっぷりのトマトソースから、いい匂いが立ちのぼっている。
 
 まず、フォークでパスタを巻き取ってぱくりと口に入れる。
 
「おいひー」

 思わずつぶやいた葉菜を見ながら、佑紀乃が言った。
 
「私、彼とはお別れしようと思うのよ」

「あ……はい」

 何やら深刻な話が始まるらしいと思い、葉菜は、かすかに緊張して、フォークを持つ手を止める。
 
「これからきちんと話し合いをするつもりでいるんだけれど、ああいうことがあった後では、彼も同意してくれるんじゃないかと思うの」

「はい」


 そこで、姉が横から言った。
 
「そうなれば、佑紀乃さんは、あの洋館を出なければならないでしょう?」

「うん」

「それで、佑紀乃さんがかまわなければ、うちを使っていただいたらどうかと思って、そうお話ししたのよ」

「え?」

「空き家にしておくと、傷みが早いっていうし、そうじゃなくても、防犯上心配でしょう。もしも佑紀乃さんに住んでもらえたら安心だし、そうすれば、葉菜も週末に帰れるでしょう?

 そのときに合わせて、私も帰ってもいいし」

「あっ、そうか」

 それはいい。週末に、家で姉と佑紀乃と過ごせるなんて最高ではないか。
 
「なんだか佑紀乃さんに家のことを押しつけるみたいで、かえってずうずうしい気もするけど、お父さんも賛成してくれると思うのよね」

 姉は、折に触れて、父と連絡を取っているらしい。佑紀乃が、申し訳なさそうに言った。
 
「とってもありがたいんですけれど、ご厚意に甘えてしまっていいのかどうか……」

「そんなことないです。そうしてください。私、佑紀乃さんが待つ家に帰りたい!」

 葉菜が言いつのると、佑紀乃は、ほっとしたように微笑んだ。その顔を見て、葉菜も微笑む。
 
 
 
 翌日の朝、教室に入って行くと、結城と、その友達の橋上、高知が寄って来た。
 
「三丘さん」

「あ、おはよう」

「怪我したって聞いたけど、大丈夫なの?」

「うん、たいしたことないの」

 今はもう、三角巾も使っていないし、傷は、もうほとんど痛まない。葉菜の机までぞろぞろとついて来ながら、結城が言った。
 
「寮であったこととか、河合さんがしたこととか、話は聞いたよ。

 河合さんと、その取り巻きたちは、今は自宅待機させられているの。今後、処分が決まるらしい。

 三丘さんへの疑いも、すっかり晴れたよ」
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