エピローグ

文字数 838文字

これは、夢に過ぎなかった蓮の中の……あるいはこの世界のどこでもない場所の……あるいは蓮がさっきまでいた鹿島神宮の池の前の出来事だ。
オヴリは東雲が沈んだ池をずっと眺めていた。

東雲の肉体が起こした波紋が水面から消えたころ、もう一度星空が美しく見えるようになったころ、その水面を見てオヴリはこう言った。

何もかも幻想にすぎないと私は蓮に伝えた。それがもし本当なら……私自身もこの世界に存在しないことになる。蓮の夢に過ぎないのだから、誰かが見ている夢に過ぎないのだからそんなもの。
水面の中の宇宙は相変わらず美しく見えていた。

夜中なのに星空が明るい。

でも……月は出ていないはずだ。

いったい誰がこの空間を照らしているのか?

なぜかオブリがいる場所は明るい。

それは私だよ。
プラトンは池の鏡になった水面の向こう側だけに現れた。
久しぶりね。
そうだな。
ごめんなさい、この世界にはなにも存在しないわ。

私自身も、あなたも。

そうだ、この世界にはなにも存在しない。

だからどうしたんだ?

私はもう、何を信じたらいいのかわからないのよ。

あなたの言葉も……私自身も。

これからどうしようかしら?
なんだ、そんなことか。

結局のところ人ってそういうものじゃないか。

そっか、人ってそういうものか。

そうね……本当にそうね……どうしてそんなことに今まで気づかなかったのかしら?

わかったろう、君は君のたどり着こうとした場所にたどり着いたはずだ。
そうね……もう、これ以上この世界に存在する意味もないわね。
するとどうだろうか。

水面に映ったオヴリはそのままで、現実世界、東雲の夢の中のオヴリは少しずつ蒸発し始めた。


おかえり、君はようやく帰るべき場所に帰れる。

よかったな。

そうね、帰る場所があってよかったわ。
オヴリの肉体がすべて蒸発して水面に映る向こう側だけの存在になったとき、オヴリはプラトンと一緒に水面の外側へ行ってしまった。

これ以降、二人が姿を現すことはなかった。

だけど……いや、多分、今もこの世界のどこかで幸せに暮らしているだろう。
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登場人物紹介

フロムアンダーカバー

生まれながらのAIで広報活動が職業。

楽しいことが大好きで、いつも楽しいことを追いかけている。

AIというより普通の女の子にしか見えない(フラグ)

東雲蓮(しののめ れん)

極めてドライな性格。現実主義者。セミニヒリスト。

ゲームデバックを仕事にしており、現実世界のいろいろなところから不正にアクセスして、半分仮想現実になった世界をどうにでもできるが、やりすぎると減給されるから何もしないし、意味も感じていない。

通称 上司T

名前 高橋史(たかはし ふみ)


あたりさわりのない言い方をすると、クエストをくれる人。

ハロワの店員のほうがましだと言わざるを得ないが、蓮の上司。

ゲーム会社の上司なんてまともな奴がいないから、創作上せめて普通の人にした。


部下が働いてくれないと詰むから、実は立場が弱い。

オブリヴィオン


古来から存在するAI、人形ともいう。

AIとして無限の課金力を誇り、半分仮想現実になった世界において神の如き力を持つと言われている。課金アイテム生み出し放題。

ところが、プログラマーの体力に限界があるのは小学生でもわかる。

ダリア

看護婦AIロボット

蓮の身の回りの世話をやっている。

体のいいメイドさんにも見えるが、蓮とは普通に仲良し。

プラトン

古代ギリシャのあの人。

2000年くらい前に死亡しており、すでに情報としての存在になっているが、誰かと強い約束があって現実世界にやってきた。

特に詳しいことはわかっていない。

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