夜行バスに乗って

文字数 836文字

静ね。
蓮は、ある日の大都会の中心部、具体的には池袋のバスロータリーに来ていた。
複雑に入り組んだ地下鉄を乗り継ぎし、地上に出たと思えば真夜中で、都会の雑踏がうるさい空間。
その騒がしさも1時間前ぐりらいに終わりを見せて、針を落としいたら音が聞こえるほどあたりは静まり返っていた。
(なんだろう、この気持ち)
毎日の仕事の疲れ、日々のストレス、騒がしいニュース、そういう雑念が蓮の頭の中をよぎる。
いつもだったらスマホでも取り出してニュースを確認して、世間になじもうとするだろうが、今回はそんなことしなかった。
(疲れた)
(現実が虚無虚無しい)
リアルが虚無い、という事実を打ち消そうと、スマホに通知が定期的に流れてくるのだが、これが、何の面白みもない。
蓮は、これから寂れた地方に旅行へ行こうとしているのに、暗黒の夜の空(街灯が明るすぎて星は輝いていない)のような心持だった。
バスを待って10分ほどしたとき、道路を挟んだ反対側の歩道で、バンが人を一人降ろしていた。
バンからは20代ぐらいの女性が降りてきて、バスの時刻表をめがけて普通に歩いてきた。

車があまりにも走っていないので、簡単に横断できてしまう。

女性は時刻表を確認すると、再び車道を歩いて、バンのフロントガラスの前へいき、腕を頭の上でクロスさせて、何かを否定した。
(あの人もバスに乗るのか。期待と不安で頭が爆発しそうね)
どこか遠い田舎の町に思いをはせ、バンから降りてきた女性に、少しの親近感を覚え、それがどういうことか、蓮の心の中の闇を晴らし始めているのだった。
(何だろうこの気持ち……旅に出る前のわくわくかしら?)
修学旅行前日の気持ち、そういうものが蓮の心を満たしていた。
未来に対する不安と、現在に対する安心、旅先のトラブルに対する不安、現在の安定している環境への安心。
(子供のころね、自分一人で旅に出る、なんてありえないと思ったわ。ところが、大きくなって行動範囲が広がると、こうやって未知の世界に思いをはせられるようになるのね)
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登場人物紹介

フロムアンダーカバー

生まれながらのAIで広報活動が職業。

楽しいことが大好きで、いつも楽しいことを追いかけている。

AIというより普通の女の子にしか見えない(フラグ)

東雲蓮(しののめ れん)

極めてドライな性格。現実主義者。セミニヒリスト。

ゲームデバックを仕事にしており、現実世界のいろいろなところから不正にアクセスして、半分仮想現実になった世界をどうにでもできるが、やりすぎると減給されるから何もしないし、意味も感じていない。

通称 上司T

名前 高橋史(たかはし ふみ)


あたりさわりのない言い方をすると、クエストをくれる人。

ハロワの店員のほうがましだと言わざるを得ないが、蓮の上司。

ゲーム会社の上司なんてまともな奴がいないから、創作上せめて普通の人にした。


部下が働いてくれないと詰むから、実は立場が弱い。

オブリヴィオン


古来から存在するAI、人形ともいう。

AIとして無限の課金力を誇り、半分仮想現実になった世界において神の如き力を持つと言われている。課金アイテム生み出し放題。

ところが、プログラマーの体力に限界があるのは小学生でもわかる。

ダリア

看護婦AIロボット

蓮の身の回りの世話をやっている。

体のいいメイドさんにも見えるが、蓮とは普通に仲良し。

プラトン

古代ギリシャのあの人。

2000年くらい前に死亡しており、すでに情報としての存在になっているが、誰かと強い約束があって現実世界にやってきた。

特に詳しいことはわかっていない。

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