夜行バスに乗って
文字数 836文字
蓮は、ある日の大都会の中心部、具体的には池袋のバスロータリーに来ていた。
複雑に入り組んだ地下鉄を乗り継ぎし、地上に出たと思えば真夜中で、都会の雑踏がうるさい空間。
その騒がしさも1時間前ぐりらいに終わりを見せて、針を落としいたら音が聞こえるほどあたりは静まり返っていた。
毎日の仕事の疲れ、日々のストレス、騒がしいニュース、そういう雑念が蓮の頭の中をよぎる。
いつもだったらスマホでも取り出してニュースを確認して、世間になじもうとするだろうが、今回はそんなことしなかった。
リアルが虚無い、という事実を打ち消そうと、スマホに通知が定期的に流れてくるのだが、これが、何の面白みもない。
蓮は、これから寂れた地方に旅行へ行こうとしているのに、暗黒の夜の空(街灯が明るすぎて星は輝いていない)のような心持だった。
バスを待って10分ほどしたとき、道路を挟んだ反対側の歩道で、バンが人を一人降ろしていた。
バンからは20代ぐらいの女性が降りてきて、バスの時刻表をめがけて普通に歩いてきた。
車があまりにも走っていないので、簡単に横断できてしまう。
女性は時刻表を確認すると、再び車道を歩いて、バンのフロントガラスの前へいき、腕を頭の上でクロスさせて、何かを否定した。
どこか遠い田舎の町に思いをはせ、バンから降りてきた女性に、少しの親近感を覚え、それがどういうことか、蓮の心の中の闇を晴らし始めているのだった。
修学旅行前日の気持ち、そういうものが蓮の心を満たしていた。
未来に対する不安と、現在に対する安心、旅先のトラブルに対する不安、現在の安定している環境への安心。