100万ドルの夜景、無料の夜空

文字数 1,351文字

蓮の入院している病院にて。
蓮さん、悪いお知らせです。この病院、計画停電の対象にされました。
で?
でって? でって! でっていう!
それで?
なんでそんなに冷静なんですか? あと、ボケに突っ込んでくださいよ。
医療用AIがぼける、という謎の光景だが、やはり連は冷たい人間、鋭い突っ込みを入れることなど不可能!
計画停電になったら、当然、電力を消費する私も止まるわけで……
再起動すればいいじゃない。
えーっと……私がいなくて寂しくないですか?
寂しいと言ってほしいのかしら?
5÷3ですね。
割り切れないってこと?
答えを簡単に出さないでください……
というか、どうしてそんなに冷静なんですか?

停電になったら、一応この町100万ドルの夜景なわけで、経済損失大きいと思うんですけど。

経済損失かー、それは大変ねえ(棒読み)
もっと大きな町の電力を止めればいいと思うんですけどね。
そういう大きい街小さい町言っちゃだめでしょ。
察しが悪いので少し怒りたい気分ですね。
怒りは自分に盛る毒よ?
怒りはしませんよ、ただやるせない気持ちにはなりますね。
そう、謝っておこうかしら。
別にいいですよ、私AIですから。
AIだから、という自虐は若干ダリアの心を蝕んだが、それでも蓮は動じない。
電気が止まるのに、どうしてそんなに冷静なんですか? さては現代人じゃありませんね?
そうかもね。
電気が止まったら、真夜中ですから灯りがありません。蓮さん、ちゃんとお部屋に帰れますか?
帰れるわ。
えーっと、電気が通ってるうちにおかゆ温めておきますから。
ありがとう。
うーん、どうしてそんなに冷静なんですか? さては電源隠し持ってますね。
隠し持ってないわ。
でしょうね、たぶん、自分のPCにでもつないでるんでしょう? 今どき、電源なんて工夫すれば蓄えられますからね。
ダリア、ちょっとこっちに来て。
何ですか?
もうすぐ計画停電だから、あなたに電源をつなぐわ。
粋な真似をしますね。PCに供給する電力が余ったんですか?
ところが、私のPCは電力を物凄い消費してね、予備のバッテリーで動くことは想定できないの。
停電中私を動かしたいんですか? うれしいですけど、なにかメリットがあるんですか?
さあ、それは私も、生まれてこの方見たことがないものを見るわけだから、やってみなければわからないわね。
蓮はダリアを電源につないだ(どこがどうとはたぶん表現規制されるから描くに描けないが)
街のはるか遠くが、暗闇に包まれ始めた。
停電が始まっている、とそれでわかるのだが、それでも蓮の心に淀みは発生しない。
暗闇が病院の手前までやってきたとき、ダリアは、次は自分たちの番か、と息をのんだ。
その夜、電気代おおよそ100万円ドルが、国の財布から浮いたわけだが、それでも蓮は何もないはずの空を見上げていた。
綺麗ですね……
そうね
毎晩100万ドルの電気を消費して、それで今まで見えていなかったものが見えた。
それは街の明かりが輝き続けていた夜、ずっと輝いていたものだったが、長い間忘れていたものだった。
いかにしてそれを忘れることができたか、というと、蓮は生まれてこの方街の明かりが消えることを経験していないわけで、今夜がそれを見る生まれて初めての時だった。
未来、人間文明が後退していく中、こういうものが見られたらいいな、と。
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登場人物紹介

フロムアンダーカバー

生まれながらのAIで広報活動が職業。

楽しいことが大好きで、いつも楽しいことを追いかけている。

AIというより普通の女の子にしか見えない(フラグ)

東雲蓮(しののめ れん)

極めてドライな性格。現実主義者。セミニヒリスト。

ゲームデバックを仕事にしており、現実世界のいろいろなところから不正にアクセスして、半分仮想現実になった世界をどうにでもできるが、やりすぎると減給されるから何もしないし、意味も感じていない。

通称 上司T

名前 高橋史(たかはし ふみ)


あたりさわりのない言い方をすると、クエストをくれる人。

ハロワの店員のほうがましだと言わざるを得ないが、蓮の上司。

ゲーム会社の上司なんてまともな奴がいないから、創作上せめて普通の人にした。


部下が働いてくれないと詰むから、実は立場が弱い。

オブリヴィオン


古来から存在するAI、人形ともいう。

AIとして無限の課金力を誇り、半分仮想現実になった世界において神の如き力を持つと言われている。課金アイテム生み出し放題。

ところが、プログラマーの体力に限界があるのは小学生でもわかる。

ダリア

看護婦AIロボット

蓮の身の回りの世話をやっている。

体のいいメイドさんにも見えるが、蓮とは普通に仲良し。

プラトン

古代ギリシャのあの人。

2000年くらい前に死亡しており、すでに情報としての存在になっているが、誰かと強い約束があって現実世界にやってきた。

特に詳しいことはわかっていない。

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