一問一脱? / 圧迫 / 担ぐ

文字数 1,438文字

寝巻(パジャマ)の下はベージュのブラだった。
左久間(さくま)は目を見張り驚愕し思わず息をのんだ。
「…ごめんね、地味でしょ?」
紗和(さわ)とて艶っぽいシチュエーションで着用するものを一つや二つくらいは持っているが、持参しているはずがない。ここに来る為の荷造りの段階で、こんな状況なんて全く想定していなかったのだから。
そもそも男が目にする女性の下着の殆どは、男が目にする用に作られている…と言い切っては乱暴だろうか。左久間(さくま)が再び紗和(さわ)の胸に飛びつこうとのめった。が、彼女はまたもやそれを巧みに防いだ。
「質問に全部答えてくれたら、幾らでも好きにしていいよ?」
もう左久間(さくま)は完全に紗和(さわ)に魅了され、篭絡させられていた。
「…わかった。」
ゴクリと生唾を飲み込んで左久間(さくま)は頷いた。

「いなくなったファミリーは、殺されたの?」
「殺してない!殺してなんかない!」
「分かった。静かに、ね。」
紗和(さわ)がやや声を荒げた左久間(さくま)(なだ)める。すると彼は続けた。
「本人の合意も、家族の承諾だってちゃんと得てるんだ。これは殺人とかじゃないんだ。日本の未来の為のプランなんだ…」
花井(はない)がそう言ったの?」
左久間(さくま)は頷いた。
――違う、これは殺人…
紗和(さわ)は背筋に冷気が這い上るのを感じた。
「もういいだろ?答えたんだから脱いでよ!」
左久間(さくま)紗和(さわ)寝巻(パジャマ)の上着に手をかけた。
――てかそんな約束していない!
が、質問を続けるためにも、こちらもリスクを払わねばなるまい。
紗和(さわ)の上半身はブラだけになった。

結局その後、一つの質問に答えると一枚脱ぐ、みたいな流れになり、いま紗和(さわ)は下着をつけているだけである。寝巻(パジャマ)のズボンを脱いだその下にタイツがあったときの左久間(さくま)の発狂を抑えるのに手間を要した。
左久間(さくま)も自身のシャツのボタンを外し始める。が、紗和(さわ)はそれを止めた。
「着たまましたい。」
――あとで面倒だ。
男物のボタンをはめるのは不慣れで時間がかかる。
「ねえ、キスして。」
紗和(さわ)は彼の耳元で囁いた。
左久間(さくま)紗和(さわ)の唇は接近しやがて触れ…

合わなかった。

がっくりとうなだれた左久間(さくま)を仰向けに寝かせ呼吸と心拍を確認する。
彼は気絶していた。
だいたいの人間はキスをする瞬間に息を止める。呼吸を止めた状態で胸部と頸動脈が圧迫されると人は簡単に失神するのだ。この方法だと本来すぐに目を覚ますが左久間(さくま)は酔っている。そのまま寝てしまうだろう。
枕元に隠してあったスマホの画面をタップしボイスメモの録音を停止させた。
脱がされたものを再び着て静かにドアを開け廊下の様子をうかがう。
――大丈夫、誰もいないよね。
紗和(さわ)左久間(さくま)を担ぎ上げ歩いた。おぶったほうが楽なのだが彼の手足は長い。あちこちにぶつかってかえって物音が出やすいのだ。
左久間(さくま)は痩せているが180cmを超える長身である。軽くはない。おまけにゆっくり慎重に静かに運ばなければならないので、男性用トイレの個室に座らせたときにはさすがに汗だくだった。
――仮眠したらシャワー浴びなきゃ…
紗和(さわ)は自室に戻って後片付けをした。左久間(さくま)がここに来た痕跡を消しておかなければならない。
それからボイスメモに録音された左久間(さくま)の話をノートにまとめた。鳩間(はとま)にとって有益な情報もいくつか得られた。
――でもこれ、どうやって渡そう…
そうなのだ。鳩間(はとま)紗和(さわ)の身体を触る振りをして紙片のやり取りをする『セクハラ作戦』は既に封じられている…。
カーテンを細く開けると、空が白み始めている。
――寝よう…
紗和(さわ)はベッドに横になり目を閉じた。

浅く短い眠りの中で、紗和(さわ)は珍しく夢を見た。

養成訓練所にいた頃の夢だった。














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登場人物紹介

福森 紗和

36歳 新人チームメンバー

小野崎 帆奈美

48歳 業務主任

中里 優菜

24歳 看護師

ファミリーのお年寄り達 1

ファミリーのお年寄り達 2

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