×▽おぷ◎/ 最期の願い

文字数 1,049文字

この声の主は確実に鳩間(はとま)だ。何を喚き叫んでいるのかまでは判らないが、何だか絶対に的中しそうな嫌な予感だけあった。
左久間(さくま)に先導されて6名のファミリーが(つい)の間『Sfumato(スフマート)』に入って来た。その中に鳩間(はとま)がいたが…成る程、確かに様子がおかしい…。
お掃除ロボットにまたがり、(おど)りのような(まい)のような…何だか〝不思議(フシギ)〟としか形容しようのない動きをしている…。
「どうしてラクダちゃんを連れて来たの?ここにもあるのに。」
子供を叱りつけるような口調で帆奈美(ほなみ)左久間(さくま)に言った。
「…えっと…それは…」
言い淀んだ左久間(さくま)は明らかに困惑し顔を伏せている。
「…それに何なのアレは…」
帆奈美(ほなみ)鳩間(はとま)に視線を向け、呆れたように吐き捨てた。
「あの爺さんが…最期は福森(ふくもり)さんの胸に挟まって死にたい!と言い張って部屋を出ようとしないので、無理やり連れて来ようとしたら…ラクダちゃんにしがみついて離れなくなってしまって…どうやら、何か丁度ラクダちゃんのフォルムが、ええ、そうです、…その…福森(ふくもり)さんの胸に見えているみたいなので、仕方なく…本当仕方なく一緒に運んできた、という次第でして…」
左久間(さくま)紗和(さわ)の視線を気にしながら申し訳なさそうに説明した。
「んあ゙!紗和(さわ)ちゃんら゙ぁ!さわちゃん〇×▽おぷ◎△けけ×!!!」
恍惚とした表情を浮かべ、(よだれ)こそ垂らしてはいないが、その口はだらしなく()いたままである。紗和(さわ)左久間(さくま)の言っていた、深夜の内にラクダちゃんによって室内に散布される神経系のガスのことを思い出していた。鳩間(はとま)はそれを吸い込んでアタマがやられてしまったのではないだろうか…。
「ぶもぉぉんぶもぉぉーん!紗和(さわ)ちゃんの□◇××ぬぽぴ〇×▽げね◎△けけ×!--545!!
あんな鳩間(はとま)でもこんな状況だから貴重な戦力である。機能しなくなるのは本当に困る。
――…でも…
もしこれが演技なら…それはそれで困る。だって超キモイ。
「だからってこんな重いものわざわざ持ってくるなんて…」
帆奈美(ほなみ)は半ば呆れ果てていた。こうなっては追い返す訳にも行くまい。それに
「ええ、でもファミリーの最期の願いは出来るだけ叶える方針でしたし…」
という左久間(さくま)の言い分にも一理がないわけでもない。
「…この爺さん好きじゃないけど、福森(ふくもり)さんの云々に関しては凄く共感できる部分もあったから…」
と珍しく口数の多い左久間(さくま)帆奈美(ほなみ)にとってはどうでもいい情報を言い添えたことも
この成り行きに興味をなくさせる一助となった。

「しょうがないわね…」

かくして帆奈美(ほなみ)はここにラクダちゃんが入るのを許可してしまったのだ。






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登場人物紹介

福森 紗和

36歳 新人チームメンバー

小野崎 帆奈美

48歳 業務主任

中里 優菜

24歳 看護師

ファミリーのお年寄り達 1

ファミリーのお年寄り達 2

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