ちょまてよ!/ カメラ付きの / まだ温

文字数 1,093文字

「ちょまてよハッチャン!」
鳩間(はとま)近江(おうみ)を呼び止めた。
「死ぬなんて言うなよ…まだ生きてるのに…」
その眼差しはすでに、先程までの、紗和(さわ)の胸に執着するあまり正気を失っていたキモい老人のそれとは違っていた。
「俺は…生きてなどいない、生き(なが)らえてさえいない…()(おわ)れずにいるだけ。そんな()()れを『生きている』とは言わないだろう…」
近江(おうみ)は寂しそうにそう答えた。
「そっか…じゃあまあそれに関してはとやかく言わないよ。よく考えて決めたことなんだもんね。じゃあさ!」
自分も老いた。彼の気持ちには共感できる。だから鳩間(はとま)は代案を口にした。

「最期に一局やらない?」

「ちょっと邪魔よ、…そういうのもういいから、ボチボチ始めるよ。」
それまでただ成り行きに耳を傾けていた帆奈美(ほなみ)が口を挟んできた。
「まぁ固いこと言わないで。最期の願いは出来るだけ叶えてくれるんだよね?」
こうこられると帆奈美(ほなみ)も断り辛い。
「分かった、仕方ないわね。準備させるから待ってて。」
「いや準備は要らないよ。」
「は?」
彼女にとって鳩間(はとま)の言葉は予想外でありまた理解不能だった。が鳩間(はとま)は続けた。
「折角だから街に降りて、日当たりのいいカフェのテラスとかで差したいな。そうだ、あったかくなってからがいいな。」
「ちょっとアンタ、何言っているの?」
もはや鳩間(はとま)は恰好はあれだがキモい(じじい)ではない。
その眼に宿す光は老練の名探偵であり、その佇まいは歴戦の兵士であった。
「見過ごすことも出来たんだけどね。やっぱもやもやするんだ。だからさ…」

鳩間(はとま)は真っ直ぐに帆奈美(ほなみ)を見据え言った。

「こんなやり方、阻止させてもらうね。」

言うや駆け出す。あまりの突然に、帆奈美(ほなみ)は一歩も動けなかった。ただ目で追うことしかできない。
そして一瞬で紗和(さわ)優菜(ゆうな)が縛られ座らされている椅子までたどり着いた。
「あ?!アンタたちいつの間に!」
紗和(さわ)優菜(ゆうな)の束縛は解かれていた。目立たないように(つい)の間に入って来ていた莉瑠(りる)が解いてくれたのだ。鳩間(はとま)は狂ったフリをして帆奈美(ほなみ)の注意を引き付けていたのかもしれない。

鳩間(はとま)紗和(さわ)優菜(ゆうな)莉瑠(りる)を庇う様に立ち
帆奈美(ほなみ)に今一度向かい合った。
「全部記録させてもらったよ。響乃森ハウス( こ こ )であった出来事すべて…」
そして鳩間(はとま)はおもむろにパンツを脱いだ。
「な!?何するんですか鳩間(はとま)さん!!!」
「ちょ!おっさん!!
莉瑠(りる)優菜(ゆうな)が目を覆う。

「このカメラ付きパンツに!」

鳩間(はとま)莉瑠(りる)にはい、とそれを手渡した。
「ギャーーアアア…まだ温かいぃいい。。。」
「さあ!!八神(やがみ)紗和(さわ)ちゃん!これを持って山を降りるんだ!!!」

「行かせるかよ!」

行く手を塞ぐようにそこに現れたのは、先程よりもテカテカした花井(はない)俊之(としゆき)だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

福森 紗和

36歳 新人チームメンバー

小野崎 帆奈美

48歳 業務主任

中里 優菜

24歳 看護師

ファミリーのお年寄り達 1

ファミリーのお年寄り達 2

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み