元ネタ　／　三人　／　ポーズ

――…これからお前たちを舐める…？

紗和(さわ)には全くピンとこなかったようだが、これは80年代にテレビ放送された人気学園ドラマ『スクールウォーズ』の名台詞が元ネタである。ラグビーを通じて不良学生たちが次第に更生し、仲間とともに努力し勝利を勝ち取っていく物語である。数多ある名場面の中にこのセリフはある。
試合に大敗した部員達に向かって監督が｢お前たち悔しくないのか？｣と詰め寄り、そして一人一人殴ってゆく場面…昨今ならば｢不適切にもほどが…｣とモザイクがかかって放映できないだろう。
というか放映しない段階でモザイクをかける必要もないが…。兎に角、花井(はない)にとっては鉄板の決め台詞だったのだが、ポカンとしている紗和(さわ)と優菜(ゆうな)を見て彼は狼狽した。
｢…こ、これからお前たち…｣
と花井(はない)は今一度繰り返そうとしたが思いとどまり、
｢…に、エッチなことしちゃうからな!!｣
至極直球で分かりやすい言葉に言い換えた。
――マズいな…。
紗和(さわ)は唇を噛んだ。いささか緊張感に欠けた場面ではあるが、花井(はない)は本当に自分達に対してエッチなことを実行するだろう。何とか優菜(ゆうな)だけでも守らなけらばなるまい。優菜(ゆうな)を見ると恐怖と悍(おぞ)ましさに蒼白な顔を歪めている。
｢じゃあ、終わったら呼んでね。私は休んでるから。｣
と帆奈美(ほなみ)が部屋を出て行く。
紗和(さわ)からは後ろ姿の背中しか見えなかった。が、その時その声に含まれた微妙な、微量な『揺らぎ』を紗和(さわ)は確かに聞いた。
洗練された聴覚は一度捕まえた音を決して逃がさない。その微かな揺らぎは、根深い感情の尾鰭(おびれ)であった。
――一か八か、賭けてみよう。上手くいけば…
｢出来るの？｣
と紗和(さわ)はやや嘲笑を混ぜた声色で問う。
｢...何だって？｣
｢あなたにそれが出来るの？って聞いたの。｣
改めて観察すると花井(はない)は50代半ばくらい、どんな若くても40代後半…この方面の体力のことを馬鹿にされるのは我慢ならないはずだ。
｢ふん！この体のテカり、いやヌメりを見ろ！｣
花井(はない)は紗和(さわ)と優菜(ゆうな)に歩み寄りおかしなポーズで照った肉体を見せつけた。
｢ちょ、ちょっと紗和(さわ)さん…挑発してどうすんのよぉ…｣
間近で迫るヌルヌルした花井(はない)に優菜(ゆうな)は悲鳴交じりに訴えた。が紗和(さわ)は止まらない。
｢せいぜい一人が限界でしょ？まあ確かに凄まじいヌメりではあるけど…」
紗和(さわ)のその圧倒的でひるまない態度に、その表情から立ち上る自信に、優菜(ゆうな)も何かを感じ始めていた。
｢うぬぬんぱ！男はヌメってナンボじゃわい！｣
花井(はない)は激昂の兆しを見せていた。
｢じゃあここにいる三人、相手に出来るの？｣
｢…三人？｣
三人、と聞いて出て行きかけた帆奈美(ほなみ)が足を止めた。
ここに至り花井(はない)はようやく気が付いた。好き勝手に振舞う男ほど、人の単純な感情の営みに目を向けられない。表向きはどうあれ、花井(はない)を好ましく思っている帆奈美(ほなみ)が、自分以外の若い女に触れることを面白く思うはずがない。そして女性は皆、多かれ少なかれ、或いは無意識に『若さ』にコンプレックスを持っている。
｢…んあーん、勿論だわさ！｣
だからこそ、いや今は若い二人としたいなぁ、とか言えようはずがない。極度の緊張状態か、動揺のあまり、花井(はない)は語尾に『だわさ』が付くようになってしまった。
｢この三人の中だったら、やっぱり一番若い私が一番イイと思うわよ！｣
そして今や優菜(ゆうな)も紗和(さわ)の言動の意図を完璧に理解し便乗してくる。もともと高飛車な性格の優菜(ゆうな)が言うとかなり鼻についた。
｢チッチッチ。そういうもんじゃないだわさ。確かに弾(はじ)き返すような若き女肌(めはだ)は魅力的だわさ。でも熟した30代の女性の滑らかに吸い付くような肌だってすっごく最高だし、さらに熟れ切った40代の女性の…そう、こういう年頃の女性でしか味わえない優しい安らいだ温もりもあるんだわさ！だわさ！だわさーーー！！！｣
誰と議論してる訳でもないのに、口角泡を飛ばし彼は言葉を連射した。そして

｢ダスーン！｣

｢ダッスンスーーン!!｣

｢ドゥキュシューーーン！｣

と花井(はない)が三段階に分けてポーズを決める。
効果音も自らで言う、という潔いスタイルが次に発せられる彼の言葉を重くした、のかもしれない。

｢それを踏まえて！お前たち三人まとめてエッチなことをする！｣

彼のゆるんだ肉体はより一段と艶めいた。