捕われの身 / 時,金 / 命,若さ
文字数 1,589文字
気が付くとそこは薄暗い室内だった。ベッドも小机もないところを見れば自室でないことは分かる。照明もなく高い天井近くに小窓が開き、そこから僅かな月明りが差してくるだけだった。
紗和 は手足を拘束され、固いリノリウムの上に転がされていた。
「何が『絶対助ける』よ!!!捕まってるじゃん!!!」
隣では優菜 が憤然とした顔で紗和 を見下ろし、喚き散らしていた。
「…面目次第もございません…つい油断しちゃって。」
紗和 は詫びながら上体を起こした。体を動かした感じでは、どこも怪我している箇所はなさそうである。
――しかし、まんまとやられたな…。
紗和 は心の中で大きなため息をついた。部屋に侵入されたことが判明した時点で、そこは戦場なのだ。やはり1年近いブランクが勘を鈍らせたのだろう。
足音がしてドアが開いた。
カチリと音がすると、青白い蛍光灯が点滅し灯ると、入って来たのが帆奈美 と分かった。響乃森 ハウスの業務主任…だが、ここでこうして対峙しているということはただそれだけの人物ではないのだろう。
帆奈美 は響乃森 ハウスにいるときのラフな服装から、エプロンを取っただけのスタイルだった。が、日頃見ている姿と同じはずなのに、どこか何がが違って見えた。
「Time is Money って言うでしょ?」
と小野崎 帆奈美 は唐突に話し始めた。
「ちょっと!これ解 いてよ!」
目の前の自分を拘束した張本人に優菜 は食って掛かる。が、
「人生ってまさに時は金なり…よね。」
帆奈美 はまるでその場には紗和 の他には誰もいないように喚く優菜 を無視した。
「マジでこれ解 きなさいよ!!」
無視は続く。
「時は未来、時は可能性、時は猶予、時は寿命そのもの、そして…時は、若さ…」
「 ……。」
紗和 は帆奈美 から目を逸らさなかった。逸らせずにいた。一体どうしたというのだろうか、何故今そんなことを言っているのだろうか、と紗和 は彼女の言葉に耳を傾け、話す様子をつぶさに観察した。
「時間さえ、若ささえあれば失敗にだって高値が付くの、だって次があるんだもの、失敗は価値ある教材となるのよ。」
血色が悪く瞳孔がやや開いている。声も細く掠 れている気がする。極度の緊張状態か、疲労状態か、或いは…
――薬物…か?
だとしても今は静観しか出来ない。こうして勝手に語ってくれているうちは取り敢えず安全なのだ。
「時は金なり…それで言うとね、若い貴女達は大金持ちなのよ。でもね…」
とそう言うと帆奈美 は口を歪め目を吊り上げ険しい顔で続けた。
「でも老人は駄目よ。爺婆 は絶対に駄目!極貧よ、一文無し。しかも若者から、人類から財産を奪っていく物乞いよ…お金も時間も盗んでいく盗人 よ、結局社会の生命力を吸い尽くそうとする化け物よ…。」
先程無視されたのも相まって、いよいよキレた優菜 が吠えた。
「はあ?さっきから何訳分かんないこと言ってるの?若者がお金持ち?私はともかく紗和 さんはそこまでじゃないでしょ?せいぜい小銭持ちでしょ!」
―― 事実でも言っちゃいけないことあるよ!てか事実だから言っちゃいけないことばっかだよ!
だがまだ優菜 が続く。
「で何?そこからいろいろ端折 ってジジイババアは貧乏人?」
――ヤバい!!それ以上は…。
「言っとくけどね、アンタだって充分バ…」
鈍い衝撃音とともに優菜 が吹っ飛んだ。
「優菜 ちゃん!!!」
「…ううぅ…。」
蹴られた勢いで壁に体を強打したようだ。頭でないといいが…。
「お願い、乱暴なことはやめて。」
「アンタ達次第よ。」
帆奈美 は紗和 を見下ろして言った。その瞬間、
――違う。
と、紗和 は直感した。
帆奈美 がこの部屋に現れた時、紗和 は彼女がいつもと違う、と感じた、それが違う。
そうではない。
今目の前に対峙している小野崎 帆奈美 こそ、何もどこも違わない本当の、本来の、剥き出しの彼女なのだ。
若さへの嫉妬と老いへの嫌悪と恐怖と…そしてもっと根深い何かで心が酷く歪んでしまった一人の女の姿なのだ。
「何が『絶対助ける』よ!!!捕まってるじゃん!!!」
隣では
「…面目次第もございません…つい油断しちゃって。」
――しかし、まんまとやられたな…。
足音がしてドアが開いた。
カチリと音がすると、青白い蛍光灯が点滅し灯ると、入って来たのが
「
と
「ちょっと!これ
目の前の自分を拘束した張本人に
「人生ってまさに時は金なり…よね。」
「マジでこれ
無視は続く。
「時は未来、時は可能性、時は猶予、時は寿命そのもの、そして…時は、若さ…」
「 ……。」
「時間さえ、若ささえあれば失敗にだって高値が付くの、だって次があるんだもの、失敗は価値ある教材となるのよ。」
血色が悪く瞳孔がやや開いている。声も細く
――薬物…か?
だとしても今は静観しか出来ない。こうして勝手に語ってくれているうちは取り敢えず安全なのだ。
「時は金なり…それで言うとね、若い貴女達は大金持ちなのよ。でもね…」
とそう言うと
「でも老人は駄目よ。
先程無視されたのも相まって、いよいよキレた
「はあ?さっきから何訳分かんないこと言ってるの?若者がお金持ち?私はともかく
―― 事実でも言っちゃいけないことあるよ!てか事実だから言っちゃいけないことばっかだよ!
だがまだ
「で何?そこからいろいろ
――ヤバい!!それ以上は…。
「言っとくけどね、アンタだって充分バ…」
鈍い衝撃音とともに
「
「…ううぅ…。」
蹴られた勢いで壁に体を強打したようだ。頭でないといいが…。
「お願い、乱暴なことはやめて。」
「アンタ達次第よ。」
――違う。
と、
そうではない。
今目の前に対峙している
若さへの嫉妬と老いへの嫌悪と恐怖と…そしてもっと根深い何かで心が酷く歪んでしまった一人の女の姿なのだ。