施設内 / 捜索
文字数 1,378文字
左久間の遠隔操作でラクダちゃん2号を移動させ、優菜を探した。彼によれば、この施設はmastering boothと呼ばれている。ブースとはそもそも個室や小部屋のような狭い区画を指す言葉である。が、モニター画面で見たところここはそれなりの広さを持っているようである。響乃森ハウスから山の斜面を下るように森の中を2kmほど歩いた場所にそれはあり、巨大な精密機器の部品を思わせる外観が自然の中でにわかには受け容れ難いほどの強烈な違和感をもって視界に迫った。
内部は至ってシンプルな構造になっていた。装飾の類は全く無く、最低限の照明がうすぼんやりと細長い通路を照らしていた。その通路に時折あるドアをひとつひとつ開けて部屋の中を確かめている。
「ここにも居ませんか…」
莉瑠が画面をのぞきながら落胆した。
「奥にも部屋がいくつかあるから、多分そこかも…」
ラクダちゃん2号を操作し、ドアを閉めながら左久間も次の部屋に向かう。
左久間によると、ラクダちゃん2号は響乃森ハウス内で使用しているラクダちゃん1号に比べ、かなり機動性と動作性に特化した設計になっている。本来清掃用の強力吸引ポンプを制御し空気圧式アームを動かすことが出来る。
「もはや掃除機じゃないな…」
と鳩間は呆れ交じりに言うと、
「一応出来るんですよ掃除。でもそもそもここは頻繁には使わないからあんまり汚れないし。」
と左久間が弁明のように言った。
「この建物には監視カメラはないのね。」
「そうなんだよね。まあさっきも言ったけどそもそもあまり使わないからね。」
紗和の質問に左久間が答えた。
「ここで最後ですね。」
ラクダちゃん2号のアームを駆使してドアを開けている左久間の横で莉瑠が心配そうに言った。もしここに優菜がいなければ他に心当たりのある場所がない。が、その部屋に優菜はいた。
「優菜!」
拘束を解こうとして暴れ疲れたのか、ぐったりとした優菜が部屋の隅に座り込んでいた。
「…え?…颯太!?颯太なんだよね?」
左久間の声で跳ね起きるも、目の前のラクダちゃん2号を見て優菜は唖然としていた。
「優菜、静かに!」
ここに来てまだ見掛けていないが花井が近くにいるかもしれないのだ。
「帆奈美さんならもういないよ。大きな扉の音がしたから、ハウスに戻ったんだと思う。」
それを聞いてモニターの前の4人は顔を見合わせた。
「!?優菜をここに連れて来たのは帆奈美さんなのか!?」
――やはりあの二人グルか…
紗和はモニターの中の優菜に声を掛けた。
「大丈夫?酷いことされなかった?」
「うん大丈夫。縛られてるだけ…って颯太!何で紗和さんと一緒なの!」
と優菜はラクダちゃん2号に掴みかかろうとしているが、結局ただジタバタしているだけであった。
――良かった。思ったより元気だ。
と紗和はほっとした。
「私もいます!」
と莉瑠、
「僕もいるよ。」
と鳩間、
「君を探すの手伝ってもらってたんだ。」
「え?そうなの??え?」
と今一つ状況を把握できない優菜。
そこへ紗和が声を一段低くして言った。
「優菜ちゃん、今行くから待ってて。」
「ええ!?これ解いてくれないの?」
「さすがにロボットアームじゃ無理だよ」
「心細くて不安かもしれないけど、今はそこでじっとしていて。絶対助ける。」
と紗和は穏やかだが力強く言った。
「…わかった。」
モニター越しの彼女は聞き分けるように、或いは決意するように頷いた。
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