丸ストーブ /  顔合わせ 

文字数 1,326文字

帆奈美(ほなみ)が玄関のドアを開けると、室内の(あか)りと夕食の匂いが暖かく漏れてきた。
「さあ入って。」
ドアを押さえながら帆奈美(ほなみ)が促した。
「はい、有難う御座います。」
と礼を言って紗和(さわ)は中に入った。玄関の内側はちょっとしたホールになっていて、丸い石油ストーブが湯気を噴くヤカンを乗せている。
「上履きは持って来た?ここで履き替えてね。外の靴はこの袋に入れて管理してね。」
確かにシューズラックのようなものは見当たらない。
「はい」
と言う紗和(さわ)帆奈美(ほなみ)は土足用のビニール袋を手渡した。
スーツケースから上履きを出して履き替え、履いてきたブーツをビニール袋にしまった。
「じゃこっちよー。」
「はい」
階段を上っていく帆奈美(ほなみ)を急いで追いかける。
――テキパキした人だな。
車の中では山道で緊張していた姿と取り留めのないお喋りをする姿しか見なかったが、職場内では動きと言葉に無駄がない。
などと感心していると、
「ここが紗和(さわ)ちゃんの部屋ね。」
と二階に幾つかあるドアの一つを示して帆奈美(ほなみ)が言った。
「はい。有難う御座います。」
紗和(さわ)は礼を言った。
「40分後に下でチームメンバーと顔合わせね。」
紗和(さわ)が使う予定の部屋のドアを開け、中の様子を見せながら帆奈美(ほなみ)が言った。
「はい、分かりました」
6.5畳ほどだろうか。ベッドと小さな机と椅子しか置いていないので広く感じる。
「あ、チームメンバーって従業員のことね。だってその方がカッコいいでしょ?一致団結できそうでしょ?」
と言いながら、多分内心は「超ダサイ」と思っているのだろう。帆奈美(ほなみ)はニヤニヤしながら付け加えた。
「そうですね。いいですね。」
紗和(さわ)もニヤニヤしながら答えた。
じゃあ後でね、と言って帆奈美(ほなみ)は降りて行った。ドアを閉めスーツケースを開き、手早く荷物を解きながら部屋を見渡した。
花井(はない)とのメールのやり取りで、就労期間は一人部屋が使えるが必要最低限のものしか置いていない、
――と聞いてはいたけれど、本当だな…
紗和(さわ)は思った。

 *

チームメンバーとの顔合わせは一階の食堂で行われた。建物の中で一番広い空間で、リビングとダイニングとキッチンが壁や間仕切り等の隔てなく収まっている。
食堂には帆奈美(ほなみ)の他に四人の男女がいた。
この人数が多いのか少ないのか程良いのか、仕事内容の全貌が分からないので判断出来ないが、想像していたよりも少ない。
「明日から加わってもらう福森(ふくもり)紗和(さわ)さんです、ハイ!」
と言って帆奈美(ほなみ)紗和(さわ)の背中を軽く押した。自己紹介しろ、という意味だろう。
福森(ふくもり)紗和(さわ)です。不慣れなことばかりですので、皆さまには、ご指導ご鞭撻(べんたつ)(たまわ)りますよう、宜しくお願い致します。」
と頭を深々下げると、何やらクスクスという笑いが起きた。
――ちょっと場違いな挨拶だったかな…
紗和(さわ)は思ったが、初対面だし丁寧過ぎるくらいで丁度良いだろう、と気を取り直した。
「えー福森(ふくもり)さんの指導は私がやりますね。」
帆奈美(ほなみ)が胸に手を添えて皆を見回しながら言った。その後、他のチームメンバーも順番に名乗るだけの自己紹介をしたので、取り敢えず苗字と顔だけは覚えることが出来た。
「あ、それから、来週もう一人新しい方が来るから、そしたら二人の歓迎会をしましょうね。では各自戻って下さーい。」
帆奈美(ほなみ)の指示で顔合わせは終了した。
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登場人物紹介

福森 紗和

36歳 新人チームメンバー

小野崎 帆奈美

48歳 業務主任

中里 優菜

24歳 看護師

ファミリーのお年寄り達 1

ファミリーのお年寄り達 2

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