アニメ化 /  夢 / ついえる…か

文字数 1,372文字

紗和(さわ)は思考する。
実際拘束されてからどれくらい気絶していただろか。スタンガンの電気ショックだけなら数分で覚醒するだろう。が、その気を失っている短時間に薬品を吸わされたり飲まされたりしていれば何時間も目を覚まさないこともあるだろう。体感で…気を失っていた時間に体感なんてあるのか分からないが、それでも

で5、6時間…。仮に半日以上目を覚まさない薬を使われていたなら、目覚めた時にもっと意識が朦朧(もうろう)としているはずだ。だとすると今はおそらく日付が変わったくらいか…。
だとすると既に異変に気付いた莉瑠(りる)鳩間(はとま)左久間(さくま)が何かしらの行動を起こしている、或いは準備をしているに違いない。
花井(はない)は満面のニタニタ笑いを浮かべ歩み寄り自らのパンツに指をかけ、引き下ろす。
「アニメ化は諦めるだわさ!ヌハハハハハ」
が、させまい!絶対出てはダメなモノがあらわれる寸前、
「ちょっと待って!」
紗和(さわ)は叫ぶ。花井(はない)に食って掛かる理由、その目的はただ一つ。
時間稼ぎだ。
「何だわさ?いい加減現実に目をむけるだわさ!!!」
「そうじゃない。あなたが出そうが出すまいが、アニメ化も映画化も先ずもってあり得ないでしょうね。そんなことより、」
「作家の夢を『そんなこと』だと?!」
「そんなことより今から舐めるんでしょ?どこを舐めるか知らないけれど、舐めるのに脱ぐ必要ってある?」
「気分でしょうが!」
語尾が変わった。そして『作家の夢』のくだりは完全にスルーされていた…。
「てか私、舐めるならシャワー浴びたいんだけど?」
優菜(ゆうな)紗和(さわ)に加勢する。一秒でも長く話を引き延ばせれば、0.1%か、或いは0.01%か分からないが、状況が好転する可能性が増えるかもしれない気がする…。いやもう半ば破れかぶれの運頼みである。
「そうね。仕事中だったから汗もかいたし。」
優菜(ゆうな)が切ったカードに紗和(さわ)も賭けてみることにした。が、勝ち誇ったように高らかに花井(はない)は笑った。
「ヌハハハハアア、お風呂入らないほうが好き、ってフェチズムもあるだわさー!」
「え?俊之(としゆき)君、そうなの?」
と驚いてつい聞き返してしまったのは何と帆奈美(ほなみ)だった。
「いや…まあ俺は違うけどね。」
違うらしい。
こんなわちゃわちゃとした会話を繋いで繋いでそしてついに、

♪♪♪

帆奈美(ほなみ)のスマホが鳴った。
――花井(はない)達だけが使えるWi-Fiがあるのかな。
紗和(さわ)はこんな時なのに今考えなくてもいいことに思考が引っ張られた。
「はい、何?…え!?本当なの?分かった。こっちも今取り込んでるからあなたも向かってちょうだい。」
帆奈美(ほなみ)に『あなた』と呼ばれていたのは恐らく左久間(さくま)だろう。花井(はない)がいるから『颯太(そうた)君』と呼ばなかったのかもしれない。
「どうした?」
花井(はない)帆奈美(ほなみ)に尋ねた。
「今からここにファミリーを連れて来るって…」
「もう?早すぎるだろ!」
「錯乱して暴れてるファミリーがいるんだって…」
「錯乱?せめて朝まで待てないのか?」
「出来るだけほかのファミリーや清水(しみず)さんや山口(やまぐち)さんに見られないほうがいいでしょう?」
忘れてるかもだから念のため説明しておくと清水(しみず)山口(やまぐち)響乃森(ひびきのもり)ハウスの調理担当のチームメンバーである。
「くっそ!誰だよその暴れてるやつって!!!」
花井(はない)が怒気を露わに床を蹴り叫んだ。

鳩間(はとま)よ。鳩間(はとま)元治(がんぢ)

――よっしゃ!粘った甲斐があった!
紗和(さわ)は心の中で大きなガッツポーズを作った。
左久間(さくま)鳩間(はとま)もここに来る!
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登場人物紹介

福森 紗和

36歳 新人チームメンバー

小野崎 帆奈美

48歳 業務主任

中里 優菜

24歳 看護師

ファミリーのお年寄り達 1

ファミリーのお年寄り達 2

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