暗闇 / 眼 / 嗅覚
文字数 1,121文字
その夜紗和 は自室で、勤務中に取った短冊ノートのメモを別の短冊ノートに丁寧に書き写してまとめた。消灯後の真っ暗な部屋の中でも、カーテンの隙間から滑り込む僅かな星明りさえあれば紗和 には充分だった。
自分の眼が、もしかしたら他の子と違うのかもしれない、と思い始めたのは小学校3年生の時だった。仲の良い友達のお家に泊まった夜、就寝時にも照明をつけていることに驚いた。日が暮れてから使用するものよりはかなり小さくて暗めではあるけれど、小さな紗和 にはこれがとても煩わしかった。「どうして消さないの?」と尋ねると「何も見えなくなるからだよ」と友達が答えたのでさらに驚いた。
幼い頃から紗和 は暗所 に入ると、ほんの小さな灯りでも眩しく感じた。昼間や明るい場所で光が眩し過ぎて困る、ということはない。が、ひとたび暗闇に目が慣れてしまえば、光が殆ど全くない部屋の中でも、全く不便なく物の細部までよく視 えるのである。それは一般的な『夜目が利く』というレベルを遥かに超えていた。
超暗順応 とか無光視能 とかいう、半分眼 の病気か奇形みたいなものらしかった。
――これ、何だっけ…
紗和 はミミズの運動会みたいな文字群を眺め声に出さず唸った。
先程からこういうことが何度かあった。
メモを取る、と言ってもいちいちポケットから取り出して書いている訳ではない。誰にも気づかれないようにするのだからポケットの中で書く。
左久間 がハウス内に設置された数十台のカメラでチームメンバーやファミリーを監視している。ファミリーの生活は安全か、チームメンバーの対応は適切か、それを見張り見守るのが左久間 の仕事である、と紗和 は考えていた。
そしてもちろん紗和 も監視されている。彼女がノートによくメモを取るのも見られていた。それはいい。熱心に仕事に取り組んでいるように映るだろう。が、短冊ノートを尻ポケットに忍ばせ、こっそり情報収集していることは知られたくない。だからエプロンの下のポケットの中で書くのだ。そこは完全に監視カメラの死角である。この方法ならメモを取っていてそれがカメラに映っても、ちょっと腰に手をやったようにしか見えない。
情報収集をしたい理由は三つあった。
一つ目は〖響乃森 ハウス〗に来て二日目の夜に聞こえたあの不思議た歌声のことが知りたかった。
二つ目はファミリーが突如一度に三人いなくなり、次の日には別の三人が入所していたこと、その不自然な迅速さの背景が知りたかった。
三つ目の情報収集したい理由は、誰にも知られずに人目を避けてそれをしたい理由、でもある。
――響乃森ハウス は何かを隠している。
最後の理由は『直感』。前職の社畜生活で紗和 の心身に分厚く深く染み付いた『犯罪に対する嗅覚』からくる直感であった。
自分の眼が、もしかしたら他の子と違うのかもしれない、と思い始めたのは小学校3年生の時だった。仲の良い友達のお家に泊まった夜、就寝時にも照明をつけていることに驚いた。日が暮れてから使用するものよりはかなり小さくて暗めではあるけれど、小さな
幼い頃から
――これ、何だっけ…
先程からこういうことが何度かあった。
メモを取る、と言ってもいちいちポケットから取り出して書いている訳ではない。誰にも気づかれないようにするのだからポケットの中で書く。
そしてもちろん
情報収集をしたい理由は三つあった。
一つ目は〖
二つ目はファミリーが突如一度に三人いなくなり、次の日には別の三人が入所していたこと、その不自然な迅速さの背景が知りたかった。
三つ目の情報収集したい理由は、誰にも知られずに人目を避けてそれをしたい理由、でもある。
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最後の理由は『直感』。前職の社畜生活で