歪曲 / 粉 / 結晶
文字数 1,203文字
「せいぜい自分達が出過ぎた詮索をしたことを嘆きなさい。好奇心ってね、致死量があるのよ。」
帆奈美 のその笑みは今まで仕事中に見せていた気さくで人当たりの良い笑顔ではなく、足元に転がる若者の無様が楽しくてついに隠し切れなかった只の顔面の歪曲であった。
その歪みを更に深くし、帆奈美 は続けた。
「どうせアンタ達は散々弄ばれて飽きたら粉にされる…それは確実なんだから…」
「…ちょっと、何よ粉になるって…」
その一言に優菜 が嚙みついた。したたか腹を蹴られ体を壁に強打したが、気を失ってはいなかったのだ。
「優菜 ちゃん大丈夫?痛いところは?」
手足を拘束されている紗和 は芋虫のように這って優菜 に近づいた。
その様子がまた可笑しかったらしく、今度は声を上げて帆奈美 が笑った。
「若さってつまり、しぶとさよね。まあ俊之 君が着くまで暇だから教えてあげる。」
と帆奈美 がドアにもたれ、粉にするっていうのはね、と話し始めた。
「要するにここに連れて来た爺 さん婆 さんをね、粉末にして処理するってこと。ここ、製粉所なの。正式にはmastering booth って言うらしいんだけどね。
それでね、どうやって粉にするかって言うと、凍らせて圧力を制御して水分を蒸発させるのね。聞いた事あるわよね、『フリーズドライ』って。食品や医薬品、化粧品の分野でとても役立っている技術よね。それを埋葬に応用しているの。で、フリーズドライでパッサパサにしてからグラインダーにかけてローラーにかけて高熱でこんがりと焼くと…真っ白な粉になるの。」
紗和 は心底胸が悪かった。嘔吐を堪えるのに苦労した。
「…何で?」
と優菜 の声が震えた。何でそんなことをするのか、と糾弾したいのだろうが恐怖で言葉を継げない。
「アナタ、介護したことある?」
「……」
突然の質問に紗和 も優菜 も押し黙った。
「あんな臭くて汚ねェ生き物のために毎日誠心誠意尽くして、死んだら死んだで周囲から責められてさ…三食作って食わして糞の世話までしてやったのに毎日毎晩怒鳴り散らされてさ…四六時中ただ『殺したい殺したい、ああ殺したい!』って思いながら生きる人生って想像つく?」
紗和 は帆奈美 のその表情 に、やり切れない怒りを、冷たい激情を、いまや信念と呼べるほど結晶化した失望を見た。が、だからと言って何かを言い返せる訳ではない。
「でもさ、私が日に2回始末したクソなんかよりも…私の人生の方がよっぽどクソだった!そんで俊之 君と知り合って、助けてもらった。でね、同じように苦しむ人を沢山助けたいって思ったの。それがこの、非生産高齢者を殺処分する計画…」
「東京ノーマライゼーション」
そう言ったのは帆奈美 ではなかった。
その声は帆奈美 の背後から遠く聞こえた。
帆奈美 がもたれていたドアから退 いて離れるとゆっくりとそれが開いた。
そこに立っていたのは…
裸に真っ赤な競泳用パンツを履き全身をテカテカに、いやもはやヌルヌルに光らせた花井 俊之 であった。
その歪みを更に深くし、
「どうせアンタ達は散々弄ばれて飽きたら粉にされる…それは確実なんだから…」
「…ちょっと、何よ粉になるって…」
その一言に
「
手足を拘束されている
その様子がまた可笑しかったらしく、今度は声を上げて
「若さってつまり、しぶとさよね。まあ
と
「要するにここに連れて来た
それでね、どうやって粉にするかって言うと、凍らせて圧力を制御して水分を蒸発させるのね。聞いた事あるわよね、『フリーズドライ』って。食品や医薬品、化粧品の分野でとても役立っている技術よね。それを埋葬に応用しているの。で、フリーズドライでパッサパサにしてからグラインダーにかけてローラーにかけて高熱でこんがりと焼くと…真っ白な粉になるの。」
「…何で?」
と
「アナタ、介護したことある?」
「……」
突然の質問に
「あんな臭くて汚ねェ生き物のために毎日誠心誠意尽くして、死んだら死んだで周囲から責められてさ…三食作って食わして糞の世話までしてやったのに毎日毎晩怒鳴り散らされてさ…四六時中ただ『殺したい殺したい、ああ殺したい!』って思いながら生きる人生って想像つく?」
「でもさ、私が日に2回始末したクソなんかよりも…私の人生の方がよっぽどクソだった!そんで
「東京ノーマライゼーション」
そう言ったのは
その声は
そこに立っていたのは…
裸に真っ赤な競泳用パンツを履き全身をテカテカに、いやもはやヌルヌルに光らせた