浴室 / 33
文字数 1,325文字
家事全般と一日三回の食事の見守りに関しては
昨日から入浴の補助にも入っている。老人は柔軟性やバランス感覚が低下しているため、滑りやすい浴室での移動には特に注意をはらっている。とは言えやはりこちらも食事同様、見守ることが主な業務となる。
「おばさんって幾つ?」
使用済みのタオルをまとめていると、ファミリーの検温を終えてひと段落した
「36です。」
だから
「へえ、けっこういってるね。33くらいかと思った。」
「有難う御座います。」
3年若く見てくれたことに感謝を述べたつもりだが、
――私が20代の時、年上を尊敬出来てただろうか…、
と
*
「小松さん、まだ起きてたんですか?」
消灯時間は過ぎていた。小松ふみの部屋のドアから灯りが漏れていたので覗いてみたのだ。
「あら
三日働いて
小松ふみはファミリーの中でも比較的軽度な方であろうか、やはり記憶力は低い。一方で、その場の思考や受け答えは明瞭であることが多いように感じられた。
――ダメ元で聞いてみるか…
「あの、知ってたら教えて欲しいんですけど…」
「何かしら」
小松ふみはワクワクしたような眼差しを
「ここって、みなさんでやってる合唱部がある、歌のサークルがある、とかって話、聞いたことないですよね?」
「合唱部?…サークル?…」
小松ふみはしばし考え込むが、
「…どうだったかしら、分からないわ、ごめんなさい。」
と本当にすまなそうに答えた。
「あ、いえいいんです。有難う御座います。じゃ、おやすみなさい。」
消しますよ、と言って消灯し小松の部屋を出た。
日中、会話する機会があったファミリー5人にも同じ質問をしたが成果はなかった。昨晩聞いた美しいハーモニーが何なのかを知りたかった。が、仕事に集中していない、と思われたくなかったからか、或いは直感がそうさせたのか、チームメンバーにはそれを悟られないようにしよう、と